久しぶりに音楽専門誌である“レコード芸術”を買った。
何かひかれた記事があったわけではない。買うに至った成り行きについてはここをご覧いただきたい。
この7月号の特集は“新・世界遺産CD 記憶にも、記録にも残る100枚”。
なんというか、苦しい企画だ。
たまにしか買わない私でも「またか」と思うのだから、いつも似たようなこういう特集を繰り返しているんだと思う。
評論家による“新・世界遺産CD選定会議”が開かれ、50枚のディスクが選ばれている。
そのなかに、“リヒテルのベスト・フォーム”と題された1枚があった。ソヴィエトの名ピアニストであるスヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter 1915-97)が弾く、ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov 1873-1943 ロシア)の「前奏曲集」である。
やっちまったぜぃ
が、おやおや、痛~ぁ。
かつて、徳間ジャパンがモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」のCD広告で、「トルコ風呂」ってやっちゃったことがあった。私はこんなミスがあり得るのかと衝撃を受けたが、でもあれは広告。わざとじゃないかとうがった見方もできなくはない。同じ“レコード芸術”に載った広告だったが、この雑誌の読者層の年齢構成は比較的高いだろう。ソープというよりもトルコ風呂という言葉になじんでいる世代だ。巧みな戦略だったのかもしれない。
でも、こちらは記事である。「トルコ風呂」のように大爆笑もできない。専門誌としてはなかなかな恥である。
原稿を書いている増田氏の“本人のあずかり知らぬ”というのが、誤植に対するもののように感じてしまう。
セルゲイ・リヒテルという過ちの仕方もあっただろうが、やっぱりスヴャトスラフ・ラフマニノフの方が読みにくさで優っている。
私が最初に聴いたリヒテルの演奏は、ザンデルリンク指揮レニングラード・フィルとの協演によるラフマニノフの1番と2番のコンチェルト。新世界レーベル(ビクター)だった。
当時、ソ連のメロディア・レーベルの音源は、日本では新世界というレーベルで出ていたのだが、音楽面では先進的とは言えないソヴィエトは新世界である、という意味だったのだろうか?
これはコーヨー(光洋)無線の西野店で買った。札幌の西野にあったカスタムパルコという当時は画期的だった商業ビルの1階に入っていた。
新品の電化製品が放つ何とも言えない香りが漂っていて、少年だった私をワクワクさせた。
コーヨーのレコード・コーナーで扱っていたクラシックのLPはセラフィムとコロムビアの廉価盤だったが、なぜかこのビクターのものも何枚か売られていた。
そしてまた、これはストコフスキー指揮のショスタコの5番とともに私が初めて買ったレコードだった。
これじゃラジカセと一緒じゃん
コーヨーでコロンビア製のレコードプレーヤー(ターンテーブルが17cmのシングル盤サイズ)を親に買ってもらい(一応スピーカーは本体と分離されたタイプ)、LPレコードも買ったわけだが、おやおや、家に帰ってきてよく見てみると、ラフマニノフの方はモノラル録音だと判明。
せっかくステレオ再生できる環境になったのに(当時はステレオラジカセは私の知る限りは存在せず、モノラルの“ラジカセ”で聴いていた)、モノラルだなんて……やれやれ。
だからこのリヒテルの盤はあまり聴くことがなかった。
現在のCDでも思うのだが、なぜモノラル録音の“MONO”表示はあんなに小さい文字なのだろう?
しかもその部分にプライスシールが貼られていて確認できないこともある。
正々堂々と少なくとも2か所には“MONO”と表記すべきだ。できれば遠近両用めがねをはずさなくても見える大きさで。消しゴムを見習ってほしい。
リヒテルというピアニストはすっごく有名な人で、当時から私も名前をよく耳にしたものだが、実際には彼の録音はほとんど聴いたことがない。
LP時代にバッハの平均律第2部の19~24番を買っただけで、エアチェックでもリヒテルにはそう接してないはずだ。決して避けていたわけじゃないんだけど……
現在でも手元にあるCDはドヴォルザークのピアノ協奏曲とショスタコのピアノ五重奏曲の2枚だけだ。
以前はヴィスロツキ指揮ワルシャワ国立フィルとのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のCDも持っていたが(1959年ステレオ録音。前奏曲Op.23-2,5,7と同Op.32-1,2がカップリングされていた)、タダ同然で〇〇オフに引き取ってもらった。
このCDはエコー・インダストリーというところが出していたリプリント盤(まあ、とどのつまり海賊盤)。定価は2000円と書かれていたが、実売価格は1000円。一時期、このシリーズのリプリント盤CDがドラッグストアや本屋の店先でワゴンに並べられて売られていた。
しかし、その実体のない定価が帯に印字されているせいか、いまでも〇〇オフなんかでは中古品が580円ぐらいというなかなか高尚なお値段で売られている。
略してレオポルド・ショスタコーヴィチ
それはともかく、あんな表記をされてしまったら今日リヒテルを取り上げるかラフマニノフを取り上げるかで、私の心は悩める乙女状態。
適当に悩みぬいた結果、あのときに一緒に買ったもう1枚のLP、レオポルド・アントニ・スタニスラフ・ボレスラヴォヴィチ・ショスタコーヴィチにすることにした。
つまりレオポルド・アントニ・スタニスラフ・ボレスラヴォヴィチ・ストコフスキーが指揮したドミトリー・ショスタコーヴィチ(Dmitry Shostakovich 1906-75 ソヴィエト)の交響曲第5番ニ短調Op.47(1937)である。
1958年の録音だがステレオ。
オーケストラはニューヨーク・スタジアム交響楽団となっているが、これは契約の関係上本名を名乗れないための架空の団体名であり、実体はニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団(ニューヨーク・フィルハーモニックの前身)らしい。
この録音についてはここやここでも取り上げているが、いままたCDで聴けるのは(長らく耳にすることができない状態だった)うれしいことだ。
良い悪い以前に、私にとっての遺産的演奏だから……
ウエストミンスター。スクリャービンの「法悦の詩」とのカップリング。