「子供の領分」と言ってもドビュッシーの作品ではなく、間宮芳生(まみやみちお)の「合唱のためのコンポジション第4番『子供の領分』」(1963)である。推薦盤は井上道義指揮東京都響,東京放送児童合唱団の演奏(フォンテックFOCD3306。1996年のライヴ録音。ただし拍手はカットされている)。しかし、この盤は現在廃盤になっているようで、店頭在庫のみだろう。
この作品は、子供たちが歌っていた「わらべ歌」を後世に残すために書かれたもので、作曲者は「全曲を通じて少なくとも34以上のわらべうた、またはその断片が用いられている」と述べている。
5つの楽章は「ゆかいなうた」「なつかしいうた1」「絵かきうた」「なつかしいうた2」「フィナーレ」となっており、子供の頃に自分たちが実際に歌ったり、あるいは耳にしたことある作品が次々と現れる(私が知っている曲は2曲しかなかったが。歌声のない環境下で幼少期を送ったのだろうか?)。「でぶ、でぶ、百貫でぶ、電車にひかれてペッチャンコ」で始まるこの作品は、日本の音楽遺産を集約した、しかし無条件で楽しめるものだ(原詩にある「土人」とか「クルクルパー」という、今ではおそらく禁止用語であろう言葉も、きちんと残されている)。
作曲者は、これをピアノ伴奏用に編曲したものの依頼を少なからず受けているようだが、児童合唱とオーケストラという組み合わせは譲れないと、これを拒否しているという。実際、ときに後期のストラヴィンスキーを思い起こすようなオーケストラの響きが美しい。
井上盤以外では、岩城宏之が指揮したものがある(読売日響,東京放送児童合唱団。ビクターV-VZCC41。こちらの録音は1968年と時間が経ったが、音は明瞭。しかし、ステレオ再生を意識しすぎた、過剰に左右に広がる音場が気にかかる(特に第3楽章)。一方、井上盤はライヴゆえか、歌詞の明瞭さは岩城盤ほどではないが、自然で豊かな音が広がる。
なお、今年の1月、都響がこの作品を定期演奏会で取り上げた(指揮は高関健)。すばらしい演奏で、とりわけ乱れのない児童合唱がみごとだった。このような作品を生で聴けることはめったにないだろうが、とても幸福感を味わえた一夜であった。