イベール(1890-1962・フランス)の“ディヴェルティメント”はとても楽 しい曲だ(「笑える」ではない)。
 この曲は、彼の付随音楽「イタリアの麦わら帽子」から改編したもので、室内管弦楽の編成となっている(picc,Fl,Cl,Fg,C-Fg,Hrn,Trp,Trb,3vn,2va,2vc,cb,pf,celesta,perc)。もともとの付随音楽の筋は「結婚式にかぶって行く麦わら帽子を馬が食べてしまったため、一騒動起こる」というもの。改編されたディヴェルティメントは6曲からなる。
 結婚式での一騒動ということで、メンデルスゾーンの“結婚行進曲”のテーマを滑稽に扱った楽章もある。
 また、以前テレビで戦時中のドキュメンタリーをやっていたのを観ていたら、当時の映画ニュースのBGMに、この曲の第5楽章が使われていて、「へぇ、こんな選曲するなんて、なかなかやるわい」と関心した覚えがある(こういうあまりメジャーではない作品を用いたという意味で)。

 私がこの曲を初めて聴いたのは、1975年1月、札幌交響楽団の特別公演「佐々木伸浩デビュー・コンサート」においてであった。
 佐々木伸浩氏は札響の(言葉は悪いが)練習指揮者で、最も札響を振っている人物と言われた方である。その彼が、晴れて公の“きちんとした”演奏会の舞台に立ったのである。他の演目はメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」、ブラームスの第1交響曲。この2曲に挟まれて、なぜこのフランス音楽を取り上げたのかは知る由もないが、当夜でいちばん興味を惹かれた演奏だった。

 CDの推薦盤は、何と言ってもマルティノンがパリ音楽院管弦楽団を振ったもの97647645.jpg(デッカUCCD9207。今販売されているのは紙ジャケ限定盤。CDタイトルは「フランス音楽コンサート」)。録音は1960年と古いが(まだ私がかわいい赤ちゃんとしてこの世に生まれる前の出来事である)、さすがはデッカ!すばらしい音である。
 この演奏はLPで持っていたが(デッカの輸入盤)、この盤を含め、LP時代にはとにかくデッカの音というのはすばらしいと思った(ショルティのマーラーの交響曲や、同じくショルティの春の祭典など)。今でもすっかりデッカ・ファンの私である(国内ではLONDONレーベルで売られていたこともある)。

 イベールのディベルティメントの録音も、ダイナミックレンジが広い。そして、大太鼓の音のリアルなこと!大太鼓の音はすでに歪んでいるのだが、それはそれですごい響きなのである。
 なお、カップリング曲はサン=サーンスの「死の舞踏」「オンファールの糸車」、ベルリオーズの「ラコッツイー行進曲」「ローマの謝肉祭」「海賊」序曲、ビゼーの「子供の遊び」であるが、いずれの演奏も秀逸。「死の舞踏」についても、この曲の演奏としては私のイチオシ。

 なお、ディヴェルティメントの最近の録音のものとしては、佐渡裕がラムルー管弦楽団を振ったものがあるが(ナクソス8.554222。1996録音←もうちっとも最近じゃないや)、マルティノンの演奏にあるワクワク感には欠ける。

 話は変わって、1975年初めといったら私の“ステレオ願望”もピークに達していた頃だ(ピークはだらだらと持続していたのだが)。
 この頃オープンリール・デッキを――AKAIの10号リールのが欲しかったわぁ――手にして、長時間録音が可能な環境にあったなら年末に放送されるバイロイト音楽祭の「ニーベルングの指輪」全作品を録音し、その影響でワグネリアンになってしまったかも知れない。

 人生って解らないものですね。←誰に言ってるんだ?しかも、勝手に提起して勝手にまとめるなっつーの!