ハラルト・ヴァイス(1949- )が1983年から84年にかけて作曲した「Arche」は音楽劇(?)のための作品。84年8月にフランクフルトで初演されている。
Archeとは「箱舟」のこと。
「箱舟」といえば、すぐに頭に浮かぶのは「ノアの箱舟」の話である。
「ノアの箱舟」の話は、アダムとエバの子孫であるノアが、
主に「正しい人」と認められ、洪水が起こるから舟を作って中に入るように、という啓示を受ける話である。この話は旧約聖書の「創世記」の第7章から記述されている。洪水が起こったのはノアが600歳の2月17日、水が引いたのは601歳の1月1日である。舟に乗り込んでいたノアたち(一つがいの様々な動物たち)は水が引いた後に舟から出て、「生めよ、増やせよ」となるわけである。
私が通った大学はキリスト教系の学校で(入るまでよく知らなかったが)、教養の授業には宗教学(もちろんキリスト
教の)というのがあり、聖書を買わされた。
在学中は聖書を開いたことなどほとんどなかったが、卒業 後にこの大歴史物語を読んでみた。登場人物が多く、また500歳で子供を生んだとかわけのわからない記述もあるが(たぶん「年」の概念が今とは違うのだろう)、とても興味深いものである。
なお、ご存知だとは思うが、旧約聖書はユダヤ教の聖典であり、キリスト教にとっては旧約、新約の両方が聖典である。ユダヤ教では、人間の形をしたイエスが神の子である
ということは認めないので、新約聖書は「存在し得ない」ものである(旧約、新約の「約」とは、神との「契約」を意味する)。
また、学校で週に一度、礼拝の時間というのがあった。牧師様のお言葉を聞き(「神父」というのはカトリック教の司祭のこと)、讃美歌を歌うのである。最初の頃は暇つぶしに(失礼!)出席していたのだが、私の歌う讃美歌は、周囲の者から「天使の歌声」のようだと言われたものだ。ただ、一つだけ惜しいのは、周囲の者の誰一人として、実際に天使の歌声というのを聞いた経験がないことであった。この礼拝の時間はやがて、私の「早飯」の時間に替わった。
そういえば、礼拝の時間にギャグで数珠を手にした奴がいたが、噂によれば退学処分とな
ったそうである。こんなことで人生を棒に振るなんて愚かしいことだが、学校側もキリスト教の精神で「汝、左手に数珠を持つならば、右手にも数珠を与えるべし」なんて気の利いた配慮をしてほしかったと思う。
さて、ドイツ語で「ノアの箱舟」は「die Arche Noahs」であり、「Arche」だけならば単に「箱舟」である。
「Arche」と題されたヴァイスのこの劇は(写真はCDの解説書に掲載されてるもので、実際の公演場面であると思われる)、おそらくは直接聖書の物語を取り扱ったものではなく、箱舟物語を現代に当てはめたものであると推測される。ただし、CD解説書を読んでも(眺めても)よく解らない(私の語学力では)。なお、副題として 「EIN STUCK MIT PROLOG ABER OHNE FINALE」(英訳ではA PIECE WITH PROLOGUE BUT NO FINALE)と書かれている。
作品は全体で約60分。2つのパートに分かれ、ほぼ全曲を2分する。
楽器編成は、org1,pf2,keyboard2,ob2,fg1,sax(cl)1,hrn2,,trb2,perc3,Electric-vn1,va2,vc2である。また声楽陣は合唱のほかに、役をあたられた独唱群が配置される(そのなかにはノアの役もいる)。
効果音も交えた作品だが、現れるどの旋律もたいへん親しみやすく、ときにドラマティック。そして、余韻を残したまま「終わりがないように」終わる。
CDはwergoのSM1060-50(輸入盤)。ライヴ録音のため、ときおり音が濁るがさほど気にはならない。ダイナミックレンジは広い。
