§1. 「今」時点ならば、万全な保障内容
私はけっこう「生命保険」という「仕組み」が好きである。
いざ自分が亡くなったとき、「あぁ、あんな人だったけど、生命保険に入っていてくれたおかげで助かった。そのことだけはマトモだった」と家族たちに感謝されることを想像すると、自分がおこなった生前の慈悲深い行為に、我ながら感動してしまう。
生前よりさらにいっそう汚れのなくなった私は(「よごれ」ではなく「けがれ」と読むことが望ましい)、額に三角巾を着けて、天井の片隅から遺族会議が行われている光景を満足げに眺めることができるのだ。死者冥利につきるではないか!
契約印を特定できたときの息子の喜びよう。悲しみの仮面の影で口元が緩むのを抑え切れない妻。ひょっとしたらちょっぴりおすそ分けがあるかもと、急に愛想を振りまくようになった初顔合わせの遠い親戚。兄弟仲が悪かった息子たちは、笑顔で「今日は立て込んでいるから寿司の出前をとろうか」と、「大漁盛り」にするか「漁火盛り」にするか、相談を始めるだろう。
そして私への感謝のしるしとしては、ワンランク上の香りの良い高級線香を立ててくれる違いない。
私が加入しているのは日本生命の商品。入ってから15年間ほどになる。
現在の契約内容は、5年ほど前の更新時期にセールスレディが切り替えを勧めてくれたプランだ。
更新時期ではなかったが新商品が出たということで、それまでの保険掛け金を頭金にして切り替えた。そのため月々の保険料はアップせず、保障内容もあまり変えなくて済んだ。つまり現契約の保険は加入してから5年ほどということになる。
死亡保障は4,000万ほど(三大疾病特約などを含む)。入院医療特約日額10,000円+成人病入院特約5,000円。さらにガンによる入院の場合は+5,000円。なかなか網羅された保障内容ではないか!成人病で入院したら1日15,000円支払われるのだ。ガンで入院しても15,000円。成人病とガンのセットで入院すると20,000円。思わず入院でもしようか、って気持ちになってしまう。
月々の保険料は22,000円弱である。
ただし、終身にわたる死亡保障金は10万円。つまり、62歳で払い込みが満了したら、この10万円しか残らない。すべてが消える。それまでに病気入院しなければ恩恵に与れない。
前回の更新時にプラン変更しても保険料があまり変わらなかったのは、この部分にカラクリがあった。
最初の保険は終身部分、つまり払い込みが満了したあとの死亡保障額がもっと高かったのだ。
そこで、金利低迷のなか、ニッセイとしては払い込み期間中の特約保障が厚いが、利益が出ない長期にわたる終身保障はほとんどゼロという保険を勧めたのだった。「更新になったら、このままでは保険料がアップしますよ。でも、新しい保険は今と同じくらいの掛け金で、同じくらいの保障が得られます」。
確かにそうであったし、担当のセールスレディ(ニッセイのおばちゃん)は知識も豊富で頼りになる人だったので、二つ返事で切り替えたのだった。まるで、すばらしい恩恵を授かるかのような気持ちであった。
よく考えてみれば、このような切り替えを促すのは企業としては当然の発想だし、私も納得して入ったのだから文句は言わない(実は終身部分まではよく見ていなかったが)。それに、若いうちは終身保障のことよりも、当面の病気や死亡の保障に重点を置く必要がある。
だから、間違っても私は「だまされた」なんて思わない。
ただ、問題はこの保険を続けるにしても、5年後には更新時期を迎えることだ。同じ保障内容で継続しようとすると、月々の保険料が45,000円以上(!)になるのだ。
それでも私は、そのときは子供も大きくなっているので死亡保障額を減額すれば、保険料のアップを吸収できるだろうと漠然と考えていた。
自分が納得して加入した生命保険である。保障は万全!完璧で不安はないと考えていた。
実際、「今の時点」では万全であった。
しかし、この先のことを考えると、見直すべき点が多々出てきたのであった。
→ To be continued!