いまテレビで流れているどこかの化粧品会社のCFでドビュッシーの「小組曲」が使われている。管弦楽版のものであるが、私はこの管弦楽版「小組曲」が 大好きである。

 この曲はもともと4手ピアノ(つまり連弾)のために1886年から89年にかけて作曲された。それをアンリ・ビュッセルが管弦楽に編曲したのだが、ピアノ版よりも管弦楽版の方がはるかにすばらしい。

 アンリ・ビュッセル(1872-1973)はパリ音楽院の作曲家教授を務めた人物で、この「小組曲」のオーケストレーションでその名が知られる。また印象主義的な教育用作品を多数残している。「小組曲」のオーケストラ編曲がなされたのは1907年頃とされており、ドビュッシー(1862-1918)も当然この編曲版を認めているはずであるし、また交響組曲「春」(1887)は1912年になってビュッセルとドビュッシー自身の2人によって管弦楽版が完成されている。編曲年からみても、ビュッセルが「牧神の午後への前奏曲」や「海」といったドビュッシー自身による管弦楽法を、このオーケストレーションに取り入れたと思われる。 そして「小組曲」がもし管弦楽編曲されていなかったら、ここまで聴かれることはなかったのではないかと思う。

 この曲が書かれたときには、まだドビュッシーは印象主義の手法に入る前のことで(ドビュッシーは1894年初演の「牧神の午後への前奏曲」で印象主義を確立したとされる)、同じ頃には「2つのアラベスク」や「ベルガマスク組曲」が書かれている。f384bbfd.jpgこれらの曲とも共通する甘美な雰囲気と美しい旋律が「小組曲」にも現れている。

 曲は4つからなり、第1曲「小舟にて」、第2曲「行列」、第3曲「メヌエット」、第4曲「バレエ」となっている。

 化粧品会社(社名を覚えていなくてすいません)のCFで使われているのは「小舟にて」であるが、このハープのアルペッジョに乗ってフルートが優しく美しい旋律を奏でる第1曲が全曲中でもいちばんの聴きものである。私はこの曲を聴くたびに、フルートの音色ってなんて素敵なんだろうと思ってしまう。

 CDは、マルティノンがフランス国立管弦楽団を振った演奏が、録音されたのが1973年~74年ではあるが、いまだに美しい輝きを放っている。EMIのTOCE13579(国内盤。2枚組。右のタワーレコードのバナーから購入できる。2,300円)で、このCDでドビュッシーの管弦楽作品はだいたい網羅できる。なお、掲載した写真は輸入盤のもので、国内盤とは異なる。

 それにしても、この音楽は私の心を描いたかのように明澄である。