ソヴィエトの作曲家・グリエール(1875-1956)の交響曲第3番ロ短調Op.42「イリヤ・ムーロメッツ」(1909-1911)。
この曲はグリエールの代表作といわれるが、実際、もっと聴かれてもよい傑作だと思う。
曲名の「イリヤ・ムーロメッツ」とは、モスクワ東方の都市・ムーロメッツのイリヤの意味。イリヤは、キエフ・ロシアのウラジミール大公の時代にいたとされる伝説上の英雄である。なんでもイリヤは、生まれてから30年もの間じっと座っていたので背が伸びすぎ、身長が3m以上になったと伝えられている。残念ながら、その間に足がしびれて腐りかけたとか、変形したというような話は伝えられていないようだ(座り続けていたのなら、胴だけ伸びたのだろうか)。
イリヤは10世紀の終わり頃、キエフを支配していたウラディミール公に仕え、超人的怪力の持ち主として知られていたという。
私はこの曲を1989年12月の札響定期演奏会で初めて聴いた。指揮は秋山和慶。そのころ札響の常任だった秋山は、よく知られざる名曲を取り上げてくれたが、これもその一環であった。
その後、このCDを見つけて購入したが(ユニコーンというレーベルの輸入盤だった)、そのCD、いまはシャッシャッというノイズで聴けたものではない。間違いなくCDには寿命があると思う。半永久的というのはウソだと思う。
さて、曲は4つの楽章から成るが、各楽章が彼の冒険伝説を扱っている。
各楽章のタイトルは、
第1楽章「さまよえる巡業者達~イリヤ・ムーロメッツとスヴャトゴール」
第2楽章「山賊ソロヴェイ」
第3楽章「ウラディミール公の宮殿での祝宴」
第4楽章「武勇伝とイリヤ・ムーロメッツの石化」
となっている。
イリヤを表すモティーフが全曲を支配しており、とても統一感がある。情景が見えるようだとは、恐れ多くて言えないまでも、垣間見えるような音楽である。
ついでに言うと、第3楽章の明るい喜びに満ちた華々し い音楽は実に親しみやすい。
私が聴いているCDはオーマンディー指揮フィラデルフィアoによる演奏。
RCA-BVCC38294。1971年録音。
オーマンディーの演奏って、あまり心の底に響いてくるものが少ないのだが、色彩感やストーリー性のあるこの作品の演奏に関しては、良い方向で出ていると思う。
録音も古くなったが(終楽章で大太鼓が思いっきり連打するところがよく聴こえなかったりする)、概ね良しと言える。タワーレコードのインターネットショップで1,575円。
しかし、30年間じっと座り続けて、最後には石になったのね。
イリヤって、動かないのが好きなのね。
座ったままで痩せられる、なら話題になるだろうな……