午前中、思い切って床屋に行って来た。
 私にとって床屋で過ごす1時間(前髪にパーマをかけるときは2時間)は、人生においてとてももったいない時間だと思う。だからなかなか行く決心がつかない。
 しかし髪が長くなってきた最近は、他の多くの善良な庶民の方がそうであるのと同じように(違うだろうか?)、私は寝ている間に髪をかきむしるようになった。なぜ、このような優雅な癖があるのか不思議だが、髪がうっとうしくなると眠りながら髪を引っ張ってしまうのだ。もちろん自分の髪である。間違って妻の髪を引っ張ろうもんなら、私はバラバラ死体にされるだろう。
 
 そういうことで、熟睡した気分にならないし、起きたら頭皮が痛い。
 髪さえ豊富になかったらこんなことで悩まなくて済むのだろうが、だからといって禿げたいという意向はまったくない。困ったものである。
 そこで、対症療法にしかならないが散髪に行って来た(散髪という言葉は北海道人はあまり使わないが、関西人は良く使っていた)。髪が短くなれば癖は影を潜めるのだ。草刈りをすれば害虫の姿がなくなるのと同じである。

 今日はまた天気が悪い。吹雪模様だ。
 床屋のマスターとの会話は、示し合わせたかのように「雪」についての話題となる。スナックの女の子の名前ではない。本当の雪である。
 もう2月も終わりだというのにまだ降り続いて参った、という序章から始まり、結論は「もう雪かきに精を出すのはやめよう。自然に融けるのを待とう」という、実に後ろ向きな内容で合意した。

 そんな話をしているときに私の頭の中で流れていた音楽は、マンボ5であった(曲名が違うかもしれないけど)。昔々、「スターどっきりマル秘報告」という番組で、芸能人をジェットコースターに乗せてその恐怖の顔を映すというコーナーがあったが、そのとき流れていた曲である。

 なぜマンボ5が浮かんだかというと、10年ほど前の今時期に九州に出張に行ったからだ。
 なぜ九州出張が関係あるのかというと、そのときに北海道は雪なのに九州はすっかり春だなあと思ったからだ。
 なぜ春とマンボ5が結びつくかというと、たまたま大分のホテルで観たTVで音楽番組をやっていて、黛敏郎の「トーンプレロマス55」なる曲が演奏されていたからだ。
 なぜ「トーンプレロマス55」とマンボ5かというと、こ56f710d5.jpgの曲に変形されたマンボ5が現れるからである。

 黛敏郎(1929-1997)の音楽に対し、私は冷たい。 あまり魅力を感じないし、かつて司会を務めていた「題名のない音楽会」での印象も嫌いだった。詳しくは知らないが、彼の政治活動も嫌だった。ソース焼きそばが好きなくせに、そんなそぶりを見せないところも許せない。
 ただ、この「トーンプレロマス55」はマンボ5が出てくるところがちょっぴり楽しい。曲全体としては、なじみやすいものとは言えないが……。だって、トーンクラスターの手法で書かれている、聴衆が嫌うタイプの「ゲンダイオンガク」の典型だから。

 CDは岩城宏之指揮の東京佼成ウインドoのものが出ている(佼成出版社KOCD2907。タワーレコードに在庫あり。ただし定価販売で2,940円)。このCD、全曲が黛敏郎のブラス作品。ちょっとマニアっぽいCDではある。