コープランド(1900-1990)の「エル・サロン・メヒコ」(1936)。
 曲名はメキシコ=シティにあるダンス・ホールの名前。1932年にコープランドがメキシコ=シティを訪れた際に、有名なこのダンス・ホールにも行ったのだが、雰囲気に魅せられた彼は、その印象をもとに作曲した。
 曲中にはいくつかのメキシコ民謡が取り入れられているが、そのままの形ではなくコープランドによって処理されているという。
 
 コープランドはユダヤ系で、20世紀前半のアメリカの代表的作曲家で、それまでの作曲家と異なりアメリカ的個性をもった作風を確立した。
 「エル・サロン・メヒコ」を書く前までの数年間、コープランドは前衛手法を用いた作品を書いたが、この作品が書かれたときには聴衆に受け入れられやすい作風に戻っている。

 この曲を聴くと、私は昔の「トムとジェリー」の中の一場面を思い出す。あの番組は3本立てで、真ん中のアニメは熊のバーニーさんとかドルーピーとかが出てくるバージョンだったが、そのバーニーさんがトウモロコシ農園の農園主で、カラス退治に頭を悩ませているという一篇を思い出すのである。
 カラスたちがトウモロコシ畑を荒らしながら行進をするときに流れていた音楽の雰囲気が、この「エル・サロン・メヒコ」の陽気な雰囲気に共通するように思えるのだ。バーニーさんには気の毒だけど……

 私がふだん聴くのは、昔の録音だが(1961年)、コ029f8bcd.jpg ープランドと同じくユダヤ系で、事実上初のアメリカ人指揮者として活躍したレニーこと、レナード・バーンスタイン指揮によるCD。オケはニューヨーク・フィル。

 なんてたって、この二人、恋人同士だったんだもの、曲の解釈はいちばん作曲者の意図に近いんじゃないかと思う。
 コープランドは、「レニーがいくらほかの男と浮気をしたって、いつかはぼくのもとに戻ってくるさ」って言ったそうだし(石井宏 著「帝王から音楽マフィアまで」から引用,学研M文庫)。
 
 このCDは現在廃盤のよう(ソニー・クラシカルMYK37527。輸入盤=写真)。
 それにしても、この言葉、コープランドって忍耐強いっていうか、自信があるっていうか……そんな問題じゃないか……