ショスタコーヴィチのバレエ「ボルト」Op.27(1931年初演、3幕)。ソヴィエトの工業化政策推進にからむ官僚主義の俗物を風刺した内容で、台本はスミルノフ。

 前年の1930年にはゴーゴリの小説をもとにした彼のオペラ「鼻」が同じレニングラードで初演されているが、「床屋の手違いで切り離された鼻が、ペテルブルグに出没して大混乱を巻き起こす」という、無教養な下級官吏を風刺したこのオペラは、その後モダニズムゆえに無視された(1974年に復活上演)。
 そしてバレエ「ボルト」も公演は一度だけに終わった。このバレエはショスタコーヴィチの「最悪たる形式主義的誤謬」として葬られたのである。

 台本の筋は「ある工場が、新たな作業場の開設準備を進めている。怠惰と飲酒のために解雇されたレンカ・グルバはその復讐を企てているが、そんな中で若い見習労働者ゴシュカが、ボルトを機械の中に差し込んで事故を起こしてしまう。しかし守衛はレンカによって告発された若い共産主義者のボリスを逮捕する。何が起こったのかをただちに悟ったゴシュカは、自らの罪を後悔して告白する。ボリスは釈放されるが、ならず者のレンカは、その正体を暴かれ、逮捕される。ちょうどその時、労働者と赤軍の兵士たちが到着、演奏会が催される」というもの(全音楽譜出版社の組曲版スコアの解説(大輪公壱による)より引用)。

 美しい話じゃないですか!涙があふれ出てくるよう8f177759.jpgな話!(←ただし、あくびに伴う涙よ~ん)
 それにしても、なぜ演奏会?赤軍合唱団か?
 私たちには「ばかばかしい」と思われるようなこういった話による音楽作品が、当時のソヴィエトではいくつも書かれていたのである。なんと道徳的のなのでしょう!

 バレエの筋はともかく、音楽そのものは若いショスタコーヴィチの特徴に満ち溢れている。それまでにはない独特の色彩感!
 ただし、全曲を聴くのはちょっと、という向きには組曲版がある。

 組曲版には2つあり、1つは1931年の8曲からなる版。Op.27a。この組曲版はショスタコーヴィチの「バレエ組曲第5番」とも呼ばれる作品である。
 もう1つは1934年の6曲からなる版。これは19319cb12172.jpg 年版から2曲をカットし、さらにオーケストレーションやタイトルの変更が成されている。
 私は組曲版からこの作品を知ったのだが、今回ご紹介 する全曲版のCDを見つけたときには体中のボルトがキシキシ音をたてて「買えよ!買うしかない!」と私の大脳皮質に働きかけをした。
 でも……ふだんは組曲版で十分かも(急にトーンダウン)。

 その全曲盤はロジェストヴェンスキー指揮ロイヤル・ストックホルムpoによる演奏(1995年録音)で、シャンドスのMCHAN9343(2枚組。写真は輸入盤のもの)。タワーレコードのネットショップに在庫あり。5,460円。
 組曲版で私がお薦めのCDは、ヤルヴィ指揮スコティッシュ・ナショナルoによる演奏(1988年録音)。この2枚組CDはショスタコーヴィチのバレエ組曲第1~4番と、「カテリーナ・イズマイロヴァ」からの組曲(バスカル編)も収録されている。シャンドスのCHANX10088で、同じく4,295円。

 あっ、「ボルト」って「ねじ」のことです。
 でも、私の体には「ネジ」は1本も入っていません。100%生体。念のため。