村上春樹の「スプートニクの恋人」(講談社文庫)は、こう言うと4a86ef78.jpg 春樹ファンの反感をかうかも知れないが(という私だって村上春樹ファンの1人ではあるのだ)、彼の小説としては必ずしも成功作とは言えないのではないか?
 何というか、とにかく先を読みたいという魅力にやや欠ける気がするのである。これは内容が女性の同性愛的なことを扱っているせいかも知れない。男である私には「ふ~ん」っていうところが、女性はまた別な視点で読み取ることがあるのかも知れない。
 ただ、誤解しないでいただきたいのは、私にとってこの小説は「羊をめぐる冒険」や「ダンス・ダンス・ダンス」などに比較するとそう感じるのであって、決して面白くない作品とは思わない。

 この小説に出てくる女性の1人、“すみれ”。

 「彼女は吉祥寺に一間のアパートを借りて、最低限の量の家具と最大限の量の本とともに暮らしていた。昼前に起きて、午後には山巡りの行者みたいな勢いで井の頭公園を散歩した。天気がよければ公園のベンチに座ってパンをかじり、ひっきりなしに煙草を吸いながら本を読んだ。雨が降ったり寒かったりすると、大きな音でクラシック音楽をかける古風な喫茶店に入り、くたびれたソファに身を埋め、むずかしい顔をしてシューベルトのシンフォニーだの、バッハのカンタータだのを聴きながら本を読んだ。夕方になると一本だけビールを飲み、スーパーマーケットで買ったできあいのものを食べた」(20p)

 この文を読むと、学生時代よく行ったクラシック喫茶のことを思い出す。学生時代といっても、私の場合は高校生のときと浪人時代のこと。当時札幌には、私が知っている範囲では「クレモナ」「シャンボール」「ウィーン」という3軒のクラシック喫茶があった。
 「クレモナ」は北大の近くで、店内の照明は比較的明るめで、健康的な感じがする店であった。この店は私の浪人中にいつのまにか無くなっていた。「シャンボール」はレコードの数も少なく、しかも傷だらけで、再生装置もあまり良いものでもなかった。この店も今は無い。
 「ウィーン」はまだ営業しているが、すっかりさびれた感じである。再生装置もすばらしいし、CDの数も豊富だが、建物自体が古いのと、照明の電球が切れたままになっていたり、椅子が絶望的に擦り切れていたりして、長居していると伝染病か何かに罹ってしまいそうな感じである。おそらく、名曲喫茶というものは役割を終えたのだろう。安くてもそこそこ聴くに堪えうる音を出す再生装置が、どこの家にも普及してしまったのだ。街頭テレビと似たようなものかも知れない。時代を感じるなぁ。でも、「ウィーン」には頑張って欲しいなぁ。

 “すみれ”が「古風な喫茶店」で聴いていたシューベルトのシンフォニーはなんだろう?なんとなく「未完成」なんかが似合いそうである。

 シューベルトの交響曲の番号は、過去混乱していて、通し番号の変更があった。
 ついでだからここで、現段階の交響曲の整理をしておこう。
 なお、D.はドイッチュ編の作品目録の番号である。

 第1番ニ長調D.82(1813)
 第2番変ロ長調D.125(1814-15)
 第3番ニ長調D.200(1815)
 第4番ハ短調D.417「悲劇的」(1816)
 第5番変ロ長調D.485(1816)
 第6番ハ長調D.589「小交響曲」(1817-18)
 交響曲ニ長調D.708A(1821)(スケッチのみ。旧D.615に含まれていた1曲)
 交響曲(旧第7番)ホ長調D.789(ピアノ譜のスケッチのみ残存。1934にワインガルトナーがオーケストレーションし第7番として発表。新ドイッチュ目録には通し番号なし)
 第7番(旧第8番)ロ短調「未完成」D.759(1822)(第2楽章まで完成。第3楽章は9小節まで完成で、以下はピアノ譜。第4楽章はなし。1865年発見)
 交響曲ニ長調D.936A(1828)(未完。3つの楽章のスケッチ。「グムンデン=ガスタイン交響曲」と呼ばれる幻の傑作とされていたが、それがこの曲に該当するかどうかは不明)
 第8番(旧第7、第9、第10番)ハ長調「グレート」D.944(1825?-26)

 今ではマーラーやストラヴィンスキーを初めて耳にして、そこからクラシック・ファンになる人も珍しくないが、私が学生の頃、クラシックの入門曲といえばベートーヴェンの「運命」とシューベルトの「未完成」であった。LPでこの2曲が表裏で収録されたものが多かったせいもあるのだろう。
 しかし、私は「運命」はともかく、「未完成」がすばらしいと3995395f.jpg 思ったのはずっとずっとあとになってからだ。中学生の私には「未完成」を理解するには未完成すぎたのだろう(だからといって、今が完成された人間だとほざいているのではない)。

 シューベルトの交響曲作品で、しかし私がいちばん好きなのは、とっても愛らしい第5番である。モーツァルトが長生きしていたらこんな曲を書いたのでは、と思わせる作品である。

 私が聴いているCDはブリリアント・クラシックスの超廉価盤。これは4枚組みのシューベルトの交響曲全集(ただし番号付きのものだけ)である。
 演奏はロイ・グッドマン指揮のハノーヴァー・バンド。ニンバス・レーベルのライセンス盤。演奏はピリオド。
 タワーレコードのネットショップに在庫があり、2,390円。規格番号は99587。まあ、だまされたと思って買うのも良いでしょう(?)。