伊福部昭のバレエ「サロメ」(1948)。
彼のバレエ「日本の太鼓《ジャコモコ・ジャンコ》」のときに書いたように、伊福部昭の作品ジャンルのなかで、舞踊音楽の占める割合は大きい。相良侑亮編の「伊福部昭の宇宙」(音楽之友社。1992)の巻末に載っている年譜から舞踊作品を拾うと、以下のようになる。
1938 バレエ「盆踊り」作曲
1940 「交響舞曲・越天楽」初演
1944 古典風舞曲「吉志舞(きしまい)」作曲
1947 バレエ「イコダイザー」初演(江口隆哉振付)
1948 バレエ「さまよえる群像」初演(石井漠振付)
バレエ「サロメ」初演(貝谷八百子振付)
1949 「子供のための舞踊曲」レコーディング
バレエ「憑かれたる城」初演(貝谷八百子振付)
1950 バレエ「プロメテの火」初演(江口隆哉振付)
1951 バレエ「日本の太鼓《ジャコモコ・ジャンコ》」初演(江口隆哉振付)
1953 バレエ「人間釈迦」初演(石井漠振付)
1956 仮面舞踊劇「ファーシャン・ジャルボー」初演(江口隆哉、宮操子振付)
1960 バレエ「狐剣舞」初演(江口隆哉振付)
1972 バレエ「日本二十六聖人」初演(江口隆哉振付)
あらためて見ると伊福部昭が、いや日本においてこれだけのバレエ作品が書かれていたということは、驚かされる。
さて、「サロメ」であるが、これは貝谷八百子(1921-1991)のバレエ団の10周年を記念公演で初演された。
先の「伊福部昭の宇宙」で、小宮多美江が書いている文を紹介する。
《貝谷八百子バレエ団10周年を記念してのバレエ「サロメ」の公演は、敗戦の荒廃からまだぬけきらない1948年5月のこと。「戦後の沈滞した舞台に、やっと創作バレエの花が咲いた」この上演について、「これはまさしく伊福部昭の「サロメ」であり、貝谷八百子の「サロメ」である。そしてこの「サロメ」が幾分でも成功したと思われる原動力は、全くこの作曲に負うところが大きい」と批評家江口博は書いている。
貝谷八百子の当初のもくろみは、シュトラウスの「サロメ」であったが、著作権の問題でシュトラウスを使うことができなかたために伊福部昭に音楽を委嘱することになった。しかし、それがかえって創造的なプラスを生みだしたと評者は指摘しているのである。「八百子の、音楽に対する鋭敏なカンと理解力、そしてまたその点では同様に、作曲者のバレエに対する理解力――この両者の深い協力とイメイジの合体があったればこそ、その成功を見た」と。
こうした舞踊音楽の創作過程で、作曲家の脳裏に夫人の踊る姿があったに違いないと想像するのは、決して私ばかりではないであろう》
最後に書かれているのは、1941年に伊福部と結婚し妻となった勇崎アイのことである。勇崎アイは勇崎愛子という名の創作舞踊家であった。
戯曲「サロメ」について触れておくと、これはオスカー・ワイルドの作品である。
R.シュトラウス(1864-1949)の楽劇「サロメ」は1905年に初演されたが、保守派からは悪口を言われた。どうして同性愛で投獄された男が書いた戯曲に音楽をつけるようなことをするのか、と。一方、マーラーは「サロメ」を天才の作品と呼んだ。
伊福部昭の「サロメ」は、先の文章を見る限りでは、かなり好意的に受け入れられたようだ。事実、当時は180回も上演されたという。
しかしその後スコアが行方不明になってしまった。
それが、1984年頃に東京交響楽団の倉庫でスコアが見つかった。
伊福部昭はこれを改訂し、7曲からなる作品とした(原曲は6曲だという)。1987年のことである。その改訂版は山田一雄の指揮によって、新星日響の第100回定期演奏会で初演された。
この音楽は、まるで冒険スペクタクル映画の音楽の ようである。曲の出だしも伊福部昭には珍しく、力強く、華々しさをもっている。もちろん、全編にわたって彼の魅力ある響きが次々と湧き出てくる。
私は改訂版初演時(1987年5月15日)のライブ録音のCD(FUTURELAND-LD32-5054)を聴いているが、現在廃盤。
著作権という障害のおかげのこの曲は生まれたわけだが、その点ではリヒャルト氏に感謝すべきか……?
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MUUSAN
クラシック音楽、バラ、そして60歳代の平凡ながらもちょっぴり刺激的な日々について、「読後充実度 84ppm のお話」と「新・読後充実度 84ppm のお話」の2つのサイトで北海道江別市から発信している日記的ブログ。どの記事も内容の薄さと乏しさという点ではひそかな自信あり。
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