芥川也寸志(1925-89)の「交響管絃楽のための音楽」(1950)。

 この作品は芥川の出世作といえる作品で、1950年にNHK放送開始25周年記念管弦楽懸賞の特賞をとったものである。
 偶然だが、芥川はNHKが本放送を始めたのと同じ日、大正14年7月12日の生まれだという。

 曲は2つの楽章から成るが(師である伊福部昭の438c2609.jpg例に倣ったのだろうか?)、その第2楽章はシンバルの1打で開始される(譜例・上。楽譜は全音楽譜出版社より出版)。しかし、初演のときにはそのシンバルが3回も鳴ってしまった。
 この楽章は前の楽章からアタッカで続けて演奏するよう指示があるのだが、初演時の指揮者・近衛秀麿がすぐに合図を出したところ、シンバルは鳴ったが、トロンボーンは譜めくりが間に合わず出ない。もう一回やったが、弱音器を取るのが間に合わなくて、3度目にようやく間に合ったのだという。
 このとき生放送を聴いていた伊福部昭は、後日芥川に「あそこのシンバル、3発はちょっと多いんじゃないか」と言ったという。

 「交響管絃楽のための音楽」は来日したシンフォニー・オブ・ジ・エアー(トスカニーニが指揮していたNBC響解散後の自主オケ)でも取り上げd6d2db5a.jpg られ、その後アメリカでも頻繁に演奏されたという。

 第1楽章はウィット感のある楽章で、中間部は郷愁ある旋律が歌われる。
 第2楽章は躍動感ある音楽。しかし、芥川の音楽の特徴でもあるが、どれだけ熱狂的になっても、決して「衣装は乱すまで」は暴れない。そこには、6fc06f2b.jpg どこか冷めたというよりは、育ちのよさのようなものが横たわっている。
 私は、譜例・下の部分(練習番号21から)なんかを聴いていると、かなり乱れてしまうのだけれども。

 師・伊福部の流れを汲んでいるが、師のように土まみれにはなっていない。それが芥川の作風と言える。私は芥川の音楽も好きである。けど、なぜか彼の音楽に、病院に行った時の、いろいろな薬が混じりあったような“匂い”を感じる……

 CDは作曲者自身が新交響楽団を振った、1986年のライヴ演奏がいいが、残念ながら現在は廃盤(フォンテックFOCD9079)。
 現役盤ではナクソスからでている「日本管弦楽名曲集」に収められている(8.555071)。こちらのCDには、師・伊福部の「日本狂詩曲」も入っている。演奏は沼尻竜典指揮東京都交響楽団である。