先日札幌市内のCDショップに立ち寄ったら、なんとファリャ のバレエ「三角帽子」全曲のスコア(総譜)が売られていた。日本楽譜出版社のもの。
けっこう驚いた。国内譜でこの曲が発売されているとは!
ということで、今日はスコアについてちょっぴりお話しさせて下さい。お願いします。と、謙虚なふり……
国内でオーケストラ作品のスコアを出版しているのは、音楽之友社、全音楽譜出版社、そして私とっては、なんとなく謎めいていると感じられる、日本楽譜出版社である。この3社でほとんどを占めると思われる。
音楽之友社のミニチュア・スコアは、昔出版されていたものは印刷が不鮮明で見づらかった。今でもそれの重版のスコアは同じだが、新しいものはとても鮮明で見やすい。また、ベーレンライター版やフィルハーモニア版といった、海外のスコアを国内で出版しているものもひじょうに美しい“譜面(ふづら)”をしている。私は楽器を演奏しない人間だが(かといって、歌を歌っているわけでもない)、これらの楽譜を眺めているだけですっかり満足してしまう。あぁ、美よ!この会社、特にモーツァルトの作品とマーラーの交響曲のスコアが充実している。 全音楽譜出版社のZEN-ON SCOREは、見づらくはないが、やはり重版を重ねている昔 のものは印刷が「大味」な印象。
この会社のスコアでは、ショスタコーヴィチの作品のラインナップが充実している。他にもプロコフィエフやハチャトゥリアンのソヴィエト物が出ているし、芥川也寸志も出ている。このあたり、なかなかマニアック。
ただ、最近のものはともかく、少し前までのものは、スコアに記された特別な指示や注意事項の和訳が載っていなかった。
また、オイレンブルク社のスコアを国内譜として出版し始めているが、そのおかげで安価でオイレンブルク社のスコアと同じものが手に入れられるようになった。もうちょっと早く言ってくれたら、シューマンのピアノ協奏曲や、エルガーの交響曲第1番のオイレンブルクの輸入譜をわざわざ高い金を払って買う必要がなかったのに、とちょっぴり恨みがある。
ただ、オイレンブルクのスコア自体がちょっと不鮮明なところがあり、それを複写出版している全音による国内譜もまったく同じである。
全音と音楽之友社のスコアを比べる と、写真のようになる。
曲はJ.S.バッハの管弦楽組曲第3番の第2曲「アリア」。
全音の方は1番から4番までの全集のスコアで900円(2002年の時点)。一方、音楽之友社の方は、第3番だけのスコアで800円(2004年の時点)。
圧倒的に全音の方が“お徳”である。主婦も大喜びって感じだ。
ただ、美しいのは音友の方。もっとも、これは音楽之友社とはいえ、もとはベーレンライター版のスコアである。だから美しいというのはある。
このAir、全音は2ページにわたって掲載されているが、音友の方は1ページに収まっている。年寄りに優しい配慮の全音である。
ただ、ここで注意したいのは、ビミョーに違う箇所があるということ。6小節目、全音は最初と繰り返し後も同じであるが、音友の方は違う(1.と2.というように異なっている)。あるいは、8小節目の第1 ヴァイオリンの前打音の有無。
奏法について、私はよくわかんないけど、こんな風な違いがある。だから一概に値段がどうとも言えなのだろう。どちらが正しいとか、そういう問題でもないのだろう。
ちなみに音友の方には最初に「ゲッティンゲン・バッハ研究所とライプツィヒ・バッハ資料館刊行の《新バッハ全集》第Ⅶ編,《管弦楽作品》第1巻,ハンス・グリュース校訂協力/ハインリヒ・ベッセラー校訂《4つの序曲(管弦楽組曲)》(BA5030)による原典版。ベーレンライター社(カッセル,バーゼル,トゥール,ロンドン)の好意による許可版」という、小姑の小言のようなことが書かれている。とにかく、権威がありそうである。だから値段も高いのだろう。
さて、日本楽譜出版社。 少なくともこの出版社、私にはよく実態がわからない会社だ。昔からあるが、最近は積極的に新しいものを出版している。最初に書いたファリャなんかがそう。
昔はオレンジ色の表紙の、なんというか、変なの、って感じであった。
写真の「おもちゃの交響曲」のスコアがそうである(この会社のスコアには発行日や重版日が記されていない)。しかも、「交響曲“おもちゃ”」でっせ~!もう少し緊張感を持ってくれよ、って感じ。
編集発行者は溝部国光という人。有名な人なのかどうか知らないが、この「おもちゃ」のスコアの後ろのページには、彼の著書「念佛のリズム」と「正しい音階」という本のPRが載っている。このスコアの解説も溝部氏である。
ここのスコア、昔のもの(先に書いたように発行日がないので、 オレンジ表紙のものを昔のものと位置づけるが)は、その楽譜もいかにも手で書きました、っていうのがあった。写真はリャードフの「8つのロシア民謡」のスコアの中のページだが(こんなマニアックな曲のスコアも出しているのだ)、ねっ、手書きでしょ?
しかし、最近のものはきれい。表紙もオレンジから黄土色に変わった。
写真のムソルグスキーの「展覧会の絵」なんて、とても美しい(最近のものには最後のページに楽譜浄書者の名前が記されている)。原曲のピア ノ譜も載っているし……
そして、ファリャに限らず、この出版社、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」やラヴェルのピアノ協奏曲(ト長調とニ長調)、ホルストの「惑星」や、エルガーの交響曲第1番など、けっこう国内譜では出ないだろうなと思っているようなものを出してくる(惑星やエルガーは、他の出版社からも出ている)。
侮れない出版社だ。
どんな会社なんだろう?
溝部さんなる人が、部屋にどぉ~んと座っているのだろうか?
なお、最近の出版リストを見ると、「交響曲“おもちゃ”」は「玩具の交響曲」に変わっていた。玩具の交響曲ねぇ……