昨日の昼は、どうしてもラーメンが食べたくて、食べたく て、職場のみんなの輪を乱しそうが、私1人だけだろうが、どんなにクソ暑い思いをする羽目になろうが、虫歯にしみようが、ラーメンを食べに行こうと密かに決意していた。11:54頃の出来事である。

 昼のチャイムが鳴っても、私は行動に移らなかった。
 というのも、すぐにラーメン屋に行っても混んでいるだろうから、時差を設けようとい う壮大なプランが出来上がっていたからだ。

 すると、課の中のおじさん(私よりも10歳以上年長だから、「おじさん」と言ってもバチは当たらないだろう。「青年」と呼んだ方が嫌味ってもんだろう。いずれにしろ、本人に直接言うことはないけど)が、「昼はどうするんですか?」と私に尋ねてきた。

 「どうしてもラーメンを食べたいと思っているのです」と、私は飢えに苦しむ、ラーメン好きなダチョウのように答えた。
 「1人でですか?」
 「えぇ、今のところ賛同者はいませんから」
 「それはいい考えです。私も行きます」

 ということで、桃太郎に家来ができた。

 私が目指したのは、JR札幌駅地下のAPIAにある「寶龍(ほうりゅう)」である。
 この店は札幌ラーメンの老舗である。
 
 私はラーメンといえば、たいていの場合、「醤油」を頼むことにしている。
 ラーメンは醤油味に限ると、私は信じ込んでいる。
 また、「醤油」の場合、たとえ「はずした」としても、「塩味」や「味噌味」ほどまずいという苦痛度は小さいと思えるのだ。

 「寶龍」の前に行き、店に入ろうとすると、おじさんは行った。

 「そこの“よし乃”って入ったことありますか?私は好きなんですよ、ここのラーメンが」

 うぐっ!緊急事態だ。彼は私が「寶龍」に入るのを妨げようとしているのだ。

 「いえ、入ったことはないです」
 「じゃあ、“よし乃”にしましょう」d9916cfe.jpg

 まるで客引きに強引に引っ張られるかのように、私は“よし乃”に引っ張り込まれた。
 しかも、ちょうどカウンターに2席が空いていた。

 メニューの先頭には「味噌ラーメン」と書かれている。
 味噌ラーメンが売り物の店のようだ。しかも、旭川ラーメンである。

 「味噌2つ!」
 おじさんは、私の意向も生年月日も血液型も聞かないで、勝手に注文した。
 そして、「ここの味噌は美味しいんだよねぁ」と、オイルショックの頃を回想するかのように、独り言をつぶやいている。
 彼の幸福感に水をさしてはいけない。
 しょうがない、今日は数年ぶりに味噌ラーメンを食べることにしよう。

 出てきたラーメンは、モヤシたっぷりでボリュームがあるもの。80d91933.jpg

 食べてみた。
 美味い!
 本当に美味い!

 おかしな言い方だが、きちんと“味噌”の味がする。
 味噌のコクがある。
 何味だか不明の「味噌ラーメン」ではない。
 これこそ「味噌ラーメン」の味だ。
 適度に効いた唐辛子もバランスが良い(季節によって唐辛子の利かせかたやコクの濃淡を調節しているらしい)。
 これは昔どこかで食べて、「美味しいなぁ」と思った「味噌ラーメン」の味に共通するものがる。
 だから、どこか懐かしい感じもする。「オギャーァ!」って泣き出してしまうところだった。

 この味なら「味噌」でも大歓迎!
 久々に満足する味のラーメンを食べた。しかも「味噌」で私は「やられて」しまった。

 「よし乃」は、札幌にはこのAPIAと、すすきののラーメン横丁の2店。旭川には何店舗かあるようだ(私が知らなかっただけで、有名店のようだ)。
 
 ぜったいお薦め!
 先に書いたように、ボリュームもある。ふだんは「ラーメン+小ライス」じゃなきゃ不足感に襲われる私だが、昨日は「けっこうボリュームがありますよ」というおじさんの忠告と、小ライスがなかったので(ふつうのライスしかない)やむなくラーメン単品にしたが、これで十分であった。

 帰りに、隣の「寶龍」をちらっと覗くと、店内はガラガラだった。こんなに空いているなんて、珍しいこともあるものだ。
 「醤油ラーメン」を食べたくなったときは、ちゃんと「寶龍」に行くからね!

 「よし乃」の味噌ラーメンは750円。
 ラーメンという食べ物としてはすっかり高くなってしまったが、この価格が札幌駅周辺の相場。ボリュームもあるから、良しとしよう。

 そうそう、私を連れ込んだおじさんに感謝しなきゃ。