昨日、妻が実家に帰った。
 私は予定していたPMFオーケストラの演奏会に行くのをやめ、家でおとなしくしていた。

 というのは事実であるが、おそらく皆さんが想定した、「摩擦や軋轢」による、見世物としては面白いストーリーとはまったく違う。

 毎年だいたいお盆前後には妻の実家を訪問するのだが(なぜ恒例のようになったのかは定かではない)、今年は行けない。
 行けない理由は、
 ① 子どもたちも大学生、高校生になり、それぞれのスケジュールで忙しいし、幼少時と違ってちやほやされない。加えて、好き嫌いをするななど、食生活においても苦痛を味わう。
 ② 私もお盆の真っ只中に出張が入っている。
 ③ 妻の両親も、お盆時期は墓参りの親戚の応対と、パークゴルフに忙しい。
 ④ 大学生と高校生になった孫はもはやなつかないから、妻の両親としても来てもらっても小遣いをせびられるだけで、本音を言えばちょっと迷惑である。
というような土台の上に、いくつもの損得勘定が働いているのである。

 それでも妻は、「一度は顔を出しておかないと」と、たまたま2日間ほど予定(バイト)がない今回、昨日のバイトが終わった後に自分だけで実家に帰ったわけである。
 帰った理由は、
 ① たまには顔を出さないと、まったく冷たいやつだと非難される。
 ② 距離を置くと、実家の近くに住んでいる兄嫁と比較される。
 ③ 一度帰っておくと、しばらくは長電話がかかってくることから解放される。
 というものであろう。

  なぜ、私が行くことから解放されたかというと、昨夜はPMFオーケストラのキタラでの今年最後の演奏会があり、それに行く予定だったこと。それと、仮にコンサートに行かないにしても、1泊2日で今日帰ってくるのはあまりにバタバタするという理由からである(私は28日の月曜日は休みをとれない)。

 ということで、タイトルにあるような「お暇をとらせていただきます」といった、フネが波平に言うようなセリフはなく、妻は実家に行ったのである

 このような結果、私は夕方まで鼻歌交じりで雑草抜きをし(もちろん庭でである。誰が河川敷の雑草取りなどするものか!)、さて、シャワーを浴びてコンサートに行こうかと思ったとたん、急速に行くのが面倒になってしまった。
 今回行けば、3週連続で土曜の夜をキタラで過ごすことになる。これはけっこう疲れる。
 しかも19時開演である。これが15時とか、あるいはせめてあと30分早ければ、帰りのことを考えればだいぶ楽なのだが、帰宅が遅くなると思うとちょっと億劫になってしまったのである。遅くなるということは、すなわち、オヤジ狩りに遭う危険性も高まるし……

 余談だが、先週(19日)のコンサートでは、4曲目の演目のバーンスタインのセレナードで独奏を務めたアン・アキコ・マイヤースへの拍手が、数回のカーテンコールで終わってしまった。本人はアンコールも用意していたはずだ(同一プログラムの、翌日の芸術の森における屋外コンサートでは、アンコールを演奏したという)。
 でも、これは彼女の演奏が悪かったせいではない。この時点で21:00をとっくに回っていた。会場の中の人々は、次の最終演目が早く始まらないかなと思っていたはずだ。あるいは、コンサートが終わるのは何時になるのだろう、と。その潜在的な意識があのような拍手になったのだと思う。

 昨夜のプログラムはR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」と、ベルリオーズの「幻想交響曲」である。この2曲ならば21:00頃に終演するだろうし、「幻想」は私にとってとても好きな曲でもある。
 でもなぁ、やっぱり面倒だな、ということで、行くのをやめにしてしまった。

 行かなかったものの、20:00を過ぎて、おそらくは「幻想交響曲」の演奏が始まった頃に合わせるかのように、私はこの作品のDVDを観た。あぁ、なんてあきらめの悪い女々しい男だろう!
 そのDVDはエリオット・ガーディナー指揮のオルケストル・レヴォリュショネール・エ・ロマンティークによるもの。
095e3152.jpg  以前にも紹介したことがあるこのDVD、演奏自体、私が聴いた中ではもっともすばらしいものだと思っている(私がクラシック音楽の中でいちばんいろんな演奏を聴いているのは、おそらく「幻想交響曲」である。「ファンタスティックおたく」である)。
 このオーケストラはピリオド楽器のもの。とはいえ、当時から新しい楽器を積極的に用いたベルリオーズだから、単純に古楽演奏とはなっていない。
 「ですから新旧の楽器の摩擦や軋轢がとても興味深いのです。そうしたものを新結成のオーケストラで実現したのです。モダンのシンフォニー・オーケストラでは、すべての音と響きが油を注入した機械やオイル・マッサージのように滑らかになってしまい、楽器同士の軋み合いがなくなってしまうのです」と、ガーディナーは書いている。
 そのとおり、この演奏ではベルリオーズの狂気の音の世界が刺激的に展開される。
 画像なので、オフィクレイドやセルパンといった珍しい楽器も観られるし、筋肉豊かな美人のコントラバス奏者(絶対カメラマンの好みだ。随分と写される)や、終楽章でなぜか笑いをこらえて演奏している、ちょっぴり危なげな弦のお姉さんの姿などが楽しめる。

 ところで、オイル・マッサージかぁ……ふふふっ。