私は伊福部昭の音楽を愛する人間の一人であるが、芥川也寸志も好きである(伊福部作品ほどじゃないけど)。
この2人、先生が伊福部で弟子が芥川という関係だが、音楽は随分違う。
それをある本では「伊福部的土俗派と橋本的都会派とを止揚した」という表現をしていたが、まさにぴったりであると思う。
というのも、“止揚”という言葉は「2つの矛盾した概念をさらに高い段階で調和し統一すること」だからである。私も辞書を調べて知ったのだけど……
橋本とは橋本国彦のことで、東京音楽学校予科作曲部における芥川の作曲法の師であるが、芥川はその後来任した伊福部昭の管弦楽法の講義に感銘し伊福部から強い影響を受けるようになったのである。
とはいえ、以前にも書いたが、芥川の音楽は響きの上では「都会的」が勝っている。ただ、伊福部が「民族」を支点にしたのに対し、芥川は「人間」までそれを拡大したのではないかとも思う。その点で根底では一致するのだろう。
伊福部の音楽も芥川の音楽も、決してカラッと明るくなることはない。つねにどこかに人間が逃れることの出来ない宿命のような陰影がある。それが土っぽく時には野蛮に出るか、繊細かつ洗練された響きになるかの違いである。表現上では師・伊福部のオスティナート技法を、芥川も好んで用いた。
1989年に肺がんで亡くなった芥川也寸志は、1925年に芥川龍之介の三男として生まれた江戸っ子である。
父親はストラヴィンスキーなどの「新しい音楽」をSPレコードで聴いており、也寸志もそれから音楽に興味を持ったという。
作曲家としては約100本の映画音楽も書いているが、その集大成的な作品が「八つ墓村」(1977)である。なお、有名な「砂の器」(1974)の音楽は芥川の作とされているが、実際には菅野光亮との共作なので、芥川也寸志作曲とは言い切れない。
TVドラマの音楽も手がけており、その中でもとりわけ有名なのはNHK大河ドラマ「赤穂浪士」(1964)の音楽である。いまでも、“討ち入り”に関係する映像のときには(イベントのニュースやギャグなど)、この音楽が使われることがある。
余談だが、昔NHKが街頭インタビューした映像を流したことがあった。NHKはすばらしい番組がたくさんありますよ、という自慰的内容であったが、そのときマイクを向けられたあるおじさんが、「私は毎週日曜の夜を楽しみにしています。あの、オオカワドラマっていうやつ、いいですねぇ」と感慨深げに答えていたのには、心底笑わせてもらった。
「武蔵坊弁慶」もNHKの番組の音楽(大河ドラマではない)。
番組の放送は1986年で、芥川が担当したのは主題曲のみである。
現在は廃盤になっているが、フォンテックのFOCD3243に収録されている。
これに収められている演奏は、1986年11月に行なわれた芥川也寸志の指揮による新交響楽団第113回演奏会「日本の交響作品展10 芥川也寸志」のアンコールとして演奏されたものである。
曲は短い序のあと、哀愁を帯びた旋律が現れ、その旋律が楽器を替えながら繰り返され、盛り上がっていくもの。ラヴェルのボレロと同じような構成である(と言うとオーバーか?)。
その間、終始鳴り渡っているのは弁慶の歩みの「下駄」の音である。
この下駄の音を聴くと、私は子供の頃に通っていた銭湯を思い出す。
私は浦河という町に住んでいたが、社宅には風呂がなく、近くの銭湯に行っていた。まだあるのかどうか知らないが、「まさご湯」という名前だった。
夏場、下駄を履いて銭湯に来ている人も少なくなかった。そのときの音を思い出すのである。
TV番組の主題曲なので短い作品だが、芥川の特徴が凝縮された音楽とも言えるだろう。
※昨日はPCの調子が悪く、投稿できませんでした。すいません。
新館入口(2014.6.22~)
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