P.ヒンデミット(1895-1963,ドイツ→アメリカ)の「ウェーバーの主題による交響的変容」(1943)。
ヒンデミットの創作におけるピークは「ヒンデミット事件」のころまでだとも言われている。1934年に起こったこの事件のあと、彼はトルコ、スイスを経て、1940年にアメリカに亡命するが、この6年の間に、かつての先鋭的な手法は影を潜めていった。もっとも、「画家マティス」のときに既に新古典主義の傾向を示していたとも言われるが……。
新古典主義(ネオ・クラシシズム)とは、バロックやそれ以前の対位法的な手法を用いて、情緒性を排除した音そのものの構築による美を追求するものである。反ロマン主義という意味という点では、ヒンデミットは一貫しているわけでもある。
1943年に書かれた「ウェーバーの主題による交響的変容」は、先鋭的な影が薄れているせいか、ヒンデミットのオーケストラ作品の中でも古くから親しまれているものである。
私がこの曲を初めて聴いたのは1974年の札響定期においてであったが、そんな昔にもすでに札響が取り上げていたのだ。それほど親しまれていたということか?(そんなに驚くほどの話でもないか……。でも、あのころはベートーヴェンとかブラームスといった作曲家がこのオケの主なレパートリーだったことは確かだ)。
ストラヴィンスキーが「プルチネッラ」でペルゴレージにアプローチしたように、ヒンデミットはウェーバーにアプローチしたのである(というような英文がスコアの解説に書いてあった)。初演は1944年1月20日に、ロジンスキー指揮のニューヨーク・フィルによって行なわれた。
曲は4つの楽章から成る。
第1楽章の主題のもとは、C.M.v.ウェーバー(と断る必要はないけど)の4手ピアノ(つまり連弾)のための「8つの小品」Op.60(1818-19)の第4曲「アレグロ イ短調」(Op.10-4,J.253。J.はF.W.イェーンスの作品目録(1871/1967)によるイェーンス番号)。力強いがちょっと不安げに始まり行進曲風に進む。オーボエがおどけた旋律を吹き打楽器によって色彩感が豊かになるが、冒頭の旋律がよみがえり、最後は高らかな咆哮で終わる。響きがどこか不安げなのは、調性のせいなのだろう(音をはずしたようなズレの不思議な魅力がある)。
第2楽章は、C.ゴッツィの劇のために書かれた付随音楽「トゥーランドット」Op.37,J.75(1809)の序曲の主題による。ウェーバーの「トゥーランドット」は序曲と6つの小品から成るが、この序曲は「中国風序曲」と呼ばれる。私は聴いたことがないのだが、その原曲によるせいか、ヒンデミットの音楽は東洋的に始まる。しかし、これがジャズ的な雰囲気に変ってくる。打楽器の使い方が印象的な楽章でもある。
第3楽章はセンチメンタルな気分にあふれたひじょうに美しい楽章。原曲は4手のピアノのための「6つの小品」Op.10(1809)の第2曲「アンダンティーノ・コンモト ハ短調」(Op.10-2,J.82)。楽章後半から楽章の最後まで 17小節半を吹き続けるフルートの細かなパッセージも魅力的である(主旋律はクラリネット→ファゴットと歌い継がれていく。写真の楽譜。なお、このスコアはオイレンブルク社のもの)。
終楽章は行進曲。原曲は4手ピアノのための「8つの小品」Op.60の第7曲「行進曲ト短調」(Op.60-7,J.265)。どこか威圧感を感じさせるのはナチスの亡霊か?なお、途中4本のホルンによって吹かれる魅力的なファンファーレはアメリカの学生歌から取られたらしいが、歌劇「魔弾の射手」のホルンをパロってるとも言われている。このパロディー(もしくはオマージュ)をきっかけに重苦しさも吹っ飛び、最後はゴージャスに終わる。
ところで、原曲に用いられている作品のうち、「8つの小品」Op.60のイェーンス番号についてだが、ウェーバーの作品リストを見ても資料によって異なるようである。
1つはこの作品の8曲のイェーンス番号が「236,242,248,253,254,264,265,266」となっているものである(Aとする)。これでいくと、「交響的変容」第1楽章の原曲はJ.253に、第4楽章の原曲はJ.265ということになる。本稿はこれに従った。
もう1つ(Bとする)は「248,264,253,242,236,255,266,254」というもの。Aと比べると、順序が違う。単に順序が違うだけかと思いきや(それだけでもけっこうな謎だが)、BにあるJ.255がAにはない。逆にAにあるJ.265(これは「変容」の第4楽章の原曲だ)がBにはない。WikiPediaなどはBの番号で記載されている。
でもぉ~、なんだかぁ~、よくぅ~、わかんないってぇ、感じぃぃ~。
どちらかが間違えているのか?(そんなことはないと思う)あるいは、目録の改訂によって番号付けが変ったのか?……
私には調べきれなかった。
CDだが、私が持っているのはコリン・デイヴィス指揮バイエルン放送交響楽団による演奏(1989録音。フィリップスPHCP9235。現在廃盤。カップリングはレーガーのモーツァルトの主題による変奏曲とフーガ)。
これはちょっとおとなしめの演奏である。
新館入口(2014.6.22~)
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