今日はオリヴィエ・メシアン(1908-1992)の「世の終わりのための四重奏曲」(1940)。
 四重奏曲といっても弦楽四重奏ではなく、ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノという特殊な編成。

  メシアンは第2次世界大戦でドイツ軍の捕虜となった。ここで彼は「ヨハネの黙示録」の第10章から啓示を受け、8曲からなるこの四重奏曲を書いたのであった。そして、絶望的な気分に満ちた(としばしば書かれている)この作品は、収容所で捕虜仲間たちとともに演奏されたのだった。
 したがって、初演は1941年1月に、8A収容所という場所において。メシアンはピアノを弾いた。もちろん、ヴァイオリン、クラリネット、チェロが弾ける人も収容されていたというわけだ。収容所で楽器が用意できるのも不思議な話だが……

 この曲はタイトルからすれば、絶望感を予感させるし、曲そのものも、確かにそういう面はある。
 ただし、鈴木淳史氏によれば、《そもそも正確には「世の終わり」は「時の終わり」と訳されるべきで、これまでの時間の概念とおさらばしようぜ、というテツガク的な主張がこめられた音楽なのだ。これまでの時間の概念とは「過去・現在・未来」という区切りを方をさすが、メシアンはそんなものは捨てて、「永遠の現在」を謳歌すべきなんじゃあないかねと提案したのだった。それを実現するのは、音楽そのもの。時間芸術である音楽が鳴っているあいだは、つねに現在なのであって、そこには過去も未来もない。聴き手はその瞬間を非日常的な感覚で味わうべし、という具合に。》(許光俊著「絶対!クラシックのキモ」:青弓社)ということだ。
 ちなみに原題は“Quatuor pour la fin du temps”である。「だから何だ」と詰め寄られても困るが……

 「ヨハネの黙示録」といえば、映画“Omen”のダミアンの頭皮を思い出してしまう(「頭皮」と書くと、突然しまりのない話になってしまいそうに感じられるのが不思議)。

 《ここに、知恵が必要である。思慮のある者は、獣の数字を解くがよい。その数字とは、人間をさすものである。そして、その数字は六百六十六である》
 きゃぁー怖ぁぁぁ~い。
 これは第13章。

 メシアンが啓示を受けたという第10章というのは、天から御使(みつかい)が降りてきて、「私」は小さな巻物をもらう。それを食べてしまいなさいと言われた「私」は、そのとおり食べた。すると「あなたは、もう一度、多くの民族、国民、国語、王たちについて、預言せねばならない」という声が聞こえた、という内容である。
 よく間違えられるが、「予言」じゃなくて「預言」である。予言はノストラダムスにまかせておけばいい。

 この曲が8楽章から成るのは、天地創造から安息日までの7日間に加え、8日目として平穏な日が訪れる、ということらしい。
 各楽章につけられたタイトルは次の通りである。

 第1楽章 「水晶の典礼」
 第2楽章 「世の終わりを告げる天使のためのヴァカリーズ」
 第3楽章 「鳥たちの深淵」
 第4楽章 「間奏曲」
 第5楽章 「イエスの永遠性への賛歌」
 第6楽章 「7本のトランペットのための狂乱の踊り」
 第7楽章 「世の終わりを告げる天使のための虹の混乱」
 第8楽章 「イエスの不滅性への賛歌」

 メシアンは1942年に解放されパリに送り返された。
 パリではパリ音楽院の和声の教授に任命され、多くの若い作曲家たちが彼のクラスに参加することになる。

 CDだが、実は私は1種類しか持っておらず、この1種類の演奏しか知らない。
 1988年結成のアンサンブル・インカント(ミカエラ・ペッシュ・ネフテル(vn),ラルフ・マンノ(cl),グイド・シーフェン(vc),リーゼ・クラーン(p))の演奏で、ARTENOVA74321-77076-2(2000年録音)。現在廃盤。

 時の終わりか……
 世も末かぁ……