アルフレッド・シュニトケ(1934-98・ロシア→ドイツ)の「イン・メモリアム」(1978)。
この作品は母の追悼のために作曲されたものだが、実は1972年から76にかけて作曲された「ピアノ五重奏曲」の管弦楽版である(母マリヤ・ヨシフォヴナは1972年に亡くなった)。
私は「イン・メモリアム」について、「生きざまを顧みる音楽」というタイトルで昨年投稿しているが、今回再度書かせてもらうことにする。そーいう気分だから。
矢野暢は「20世紀音楽の構図 同時代性の論理」(音楽之友社)の中で、次のように書いている。
《ところで、シュニトケの最高傑作がなにかについては、 衆目の一致するところ、それは『ピアノ五重奏曲』(1972-76)だという意見のようである。母の急逝を受けて、追悼のための作品として書かれたこの曲は、たしかに完成度が高く、そして心を揺さぶられるような奥深い音楽美を宿している。しかし、この曲を聴いた指揮者のゲンナジー・ロジェストヴェンスキーの勧めもあって、シュニトケは、この五重奏曲のオーケストラ用編曲と取組むことになる。そして、1978年に完成したのが、『イン・メモリアム』である。私は、原曲の『ピアノ五重奏曲』よりも、こちらの方を買う。20世紀音楽のなかに、きわだった存在感をもって位置づけられうるすぐれた作品であるといってよい。そして、この作品は、シュニトケの音楽が、ほぼそのころ、主体性に満ちたひとつの独自の世界を築くことに成功したことを物語りもするのである。》
私もまったく同感である。便乗しているんじゃなくて、あるいは権威主義に迎合しているんでもなくて、もちろん実は私が矢野暢その人でもなくて、心底そう思う。
個人的にジャンルとしてオーケストラ作品が好きだということももちろんあるが、オーケストレーションによって、この音楽の表情は格段 に輝きを増した。悲しい輝きを。
曲の始まりからして、胸が焼けつくような音楽の予感を感じさせる(楽譜・写真上)。
第2楽章はグロテスクな切ないワルツ。それは、人の生きざまは滑稽な踊りだと言っているかのようである。このワルツの旋律はシュニトケの言う「音楽における悪の表現は流行歌的なものをおいて他にないと思う」(A.イヴァシキン/秋元里予訳「シュニトケとの対話」:春秋社)というものなのかも知れない。
第3楽章の混沌とした瞑想と悲痛な叫び。鼓動の刻
まれるリズム。突然のオルガンの強奏!宗教的な響きは安らぎか?恐ろしい審判か?
第4楽章の繰り返し襲ってくる「何か」。第1楽章冒頭の旋律が破壊的によみがえる。
第5楽章(終楽章)は一貫してオルガンが田園風の旋律を繰り返す。その上に、それまでの楽章に現れたさまざまな旋律の断片が回想される。最後に平安を迎えようとするときに、これまでの出来事が脳裏に浮かび上がるかのよう。死の直前に走馬灯のように思い出がよみがえるというのはこういうことなのか?最後はオルガンの音だけが消え入っていく(楽譜・写真下)。
シュニトケは「多様式主義」を自称した。
その「多様式」が、心にとめどもなく浮かんでくる、懐かしさ、つかの間の日差しのような安らぎ、とらえどころのない不安、やるせない思い、正体不明の憂鬱、取り返しのつかない悔いといったイメージを見事に表現していく。聴き手に安らぎを与えてくれそうにしてはくれるが、それははかない努力に終わってしまう。
CDはどちらも廃盤。
シュニトケのちょとしたブームは、今やすっかり落ち着いてしまったかのような感がある。
しかし、得体のしれないいろいろな歯車が同時にバラバラ
な向きで回転しているこの世の中、再びブームがやってくるのではないだろうか?
シュニトケはこう言った。
あまねく世界に神は存在し
あまねく音楽にバッハは存在する
人が曲を書く時、人は世界を作り出しているのである……
表現に値しない音楽の素材など一つもない……
生そのもの、我々を取り囲むすべてのものが、
かくも複雑な様相を呈しているので、
そのすべてを呼び出そうとするなら、
我々はより一層誠実になるだろう……
聞き手が何を理解し、何を理解しないかは
聞き手自身の決定に委ねるとしよう。 (出典:同)
新館入口(2014.6.22~)
御多分にもれず参加中・・・
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© 2007 「読後充実度 84ppm のお話」
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