先日のことだが、酒を飲んでいて、オシッコの話題になった。

 私はいつもの通り、ビール・オンリーで貫き通していて、当然のことながら、何度もトイレに行き来したのだが、そのうち最近はトイレが近くなったという話題になった(自分とトイレの物理的距離が縮まったというのではなく、オシッコに行く頻度が高まったという意味である。)

 ビールを飲んでいなくても、私はトイレが近い。
 でも、それは20歳過ぎからで、ということは一般的にいう老化現象ではない(20歳から老化現象がはじまったという可能性は捨てきれないけど)。
 そのきっかけは、間違いなく膀胱カテーテルの挿入にある。
 新しき快楽を求めての危ない悪戯で自分のチンチンにカテーテルを入れてみたわけではない。
 以下はその悲しいストーリーである。



 大学の卒業間近。
 ある日学校のトイレに行って、オシッコをすると白い便器にぶつかったものは真っ赤な液体であった。
 私は自分が生理になったのではないかと思った。一瞬それほどわけがわからなくなり、その直後は全身から力が抜けていくような気がした。私は女だったの……?

 でも、それは血尿であった。

 どこかに痛みがあるわけではない。何か異常な感覚が体にあるわけでもない。
 ただ、いつもの日常と決定的に違うのは、オシッコが真っ赤だということだ。

 学校を早退し、家の近くの内科に行った。

 受付で症状を話す。
 そのときの私は、世界中の誰よりも不幸な顔つきをしていたに違いない。
 これで就職もパーになるかも知れない。いや、このまま出血多量で死ぬかも知れない。
 オシッコをするたびに命を削っていくわけだ。
 血尿による失血死だなんて葬式で披露されたくない。

 受付のお姉さんは紙コップを渡し、尿をとってくださいという。
 あぁ、また命が削られる……

 診察室に呼ばれる。
 医者がとても心配そうな、でもいくぶん演技がかった感は否めない表情で、「どうしたんですか!?血尿が出ていますよ!」という。
 そんなん、わかってるって!だからこうして来たんやんけぇ。
 「これはたいへん。すぐに紹介状を書くから泌尿器専門のI病院に行ってください。場所は……」ということで、その足で私はI病院に向かった。内科から歩いて15分ほどのところにある専門病院だ。結局私は、1,500円払って内科医にお手紙を書いてもらっただけであった。

 I病院に着く。
 また尿検査である。あぁ、命がまた削られる。
 心なしか貧血による立ちくらみの症状が現れ始めたような気もする。
 待合室で呼ばれるのを待っている老人たちが、静的な幸福感に満たされているように見える。

 診察室に呼ばれる。
 「血尿が出ていますね。かなりの。最近おなかを強くぶつけたりしたことはなかったですか?」
 この医者、小学校の時のいじめっ子によく似ている。
 「いえ、ありません」
 「激しいセックスをしませんでしたか?」
 「いえ。こう見えても、私はセックスに関しては老人に勝るとも劣らないほど動きが鈍いです」とふだんなら返すところだが、そのときの私は血が欠乏しつつあった。「いえ。そんな……乙女に向かって何言うの」と答えるのが精いっぱいであった。
 「う~ん。わかりました。おなかを診てみましょうか?どうです、おなかを診させてもらっていいですか?」
 おなかを診てもらって、私に何の害があるのだろう?ずいぶんと遠慮がちな医者だな、と思ったが、彼の言う「おなかを診る」というのは、シャツをぬいでおなかを触ってみるというようなたぐいのものではなかった。

 10分後、私は婦人科にあるような台の上に仰向けに寝かされ、足は台の両側から飛び出したアームにのせられた挙句、しっかりとマジックテープで固定され、とても人には見せられない大股開きの恥ずかしい恰好で、先生とのSMプレイを、いや、診察を待つはめになったのである。……続く。