前回までのあらすじ

 《男なのに生理が来たと思った私は、それが血尿であることに気づいたが、病院をたらいまわしにされ、行き着いた泌尿器科では下半身生まれたままの姿をさらす羽目になり、さらに大股開きで治療台の上で足を固定されてしまった》

 「おなかを診させてください」
 それが医者の言葉だったが、私にはそれを拒否する理由はなかった。たぶん、おなかに聴診器を当てたりするくらいだろうから。

 「こちらにどうぞ」
 若くていかにもエロっぽい看護婦が私をカーテンで仕切られた隣の間へといざなった。
 彼女は真紅の口紅をつけ、髪はパーマでくりくりで、まさにエロ漫画で浣腸を持っている看護婦として登場してきそうなキャラだった。顔も悪くなく、どちらかといえば誘惑されたくなるようなタイプであった。
 カーテンの向こうは、婦人科で膣や子宮を検査する時に患者が寝る台のようなベッドのようなものが置かれていた。両側からは骸骨の腕のようにアームが帯びており、そこに足首をのせて固定するようになっていた。ご丁寧に、上半身と下半身の境目あたりにはカーテンがかけられるよう用意されていた。
 看護婦は私にズボンをおろせという。
 えっ???
 看護婦は私にパンツもおろせという。
 おっ???

 ムーミンのようにもじもじしている私に気も使わず、背を向けた彼女は(白衣はブラジャーのホックの突起によって盛り上がり、エロエロしいアクセントとなっていた)、いきなり注射の用意をしている。
 もし、これがエロ漫画だったら、「ねぇ、私にあなたのを注射してぇぇん」「えっ、こんなところで?」「大丈夫よぉ。先生が来る前に、私が治療をしてあ・げ・る!」と展開するはずだが、彼女は本気で私に注射を打つつもりらしい。
 私はパンツを脱ぐ決意をした。
 しかし、臭わないだろうか、という心配があらゆる概念をのりこえて私の脳内を支配した。
 風呂に入ったのは昨晩だ。その後何度もオシッコをし、さらには血まで流している。くさいに違いない。

 そんな私の悩みなど知ったこっちゃない、という具合に彼女は振り返り、私に近寄って来た。
 「麻酔を打ちます」
 「……」
 「すぐに効きますから。注射が終わったらその台の上にそのまま仰向けで横になってください。膀胱鏡検査をしますから」
 やられた!おなかを診ましょうというのは、内部から観察しましょうという意味だったのか!あの医者が、どうりで遠慮がちに言っていたわけだ。

 しかし、そんな感慨にふけっている間もなく、彼女は私のおちんちんの先をつまみ、上に持ち上げ気味にし、裏側を酒精綿で拭き、間髪入れずおちんちんの裏側の付け根付近の麻酔の注射を打った。
 私は恥ずかしさのあまり、彼女にこう言った。
 「上手ですね」
 「そうですか?」
 実に事務的で愛想のかけらもなかった。どうしてこんな余計なことを口走ってしまったのだろう。いまでも悔やまれる。
 それにしても、好みは別として、若くてけっこう色っぽい看護婦におちんちんを触られているというのに、まったく勃起しなかった。できたての蛾のさなぎみたいなままだった。
 私は、恐怖には性欲もかなわない、ということを若くして知った。

 台に寝かされた。足はがっちりと固定された。柔道の受け身をした直後にそのまま体勢を固定されて、標本にされたような感じだ。
 この恥ずかしさ、どうすればいいのだ?
 もし、部屋を間違ってうら若き女性患者が迷い込んで来たら、そこには大股ですべてをさらけ出している私の淫靡な姿があるのだ。ここが病院でなかったら、間違いなく私は変態である。

 シャーッ!
 カーテンが引かれる。
 これで私は、自分の腹から下を見守り擁護する権利をはく奪された。
 もう、オチンチンは僕のものではない。看護婦さんのものでもない。あの医者にいじくりまわされるだけだ。

 その悪魔医者がカーテンの向こうから言う。
 「これからスコープ入れますからね。痛かったら言ってくださいね」
 「あの、私のは小さいので入れにくいんじゃないでしょうか?」
 「大丈夫です」
 また、余計なことを言ってしまった。それにしても「そんな、小さくないですよ」くらい言って欲しかった。

 麻酔が効いているので、痛みは全くない。カーテンの向こうでどんな儀式が行われているのか、さっぱりわからない。
 膀胱にガンでもあるのだろうか?
 あぁ、短い人生だった、などと思いっきり悲観的に考えを巡らせた。
 だって、そうでもしないと、この恥ずかしさからは解放されないからだ。

 検査は10分ほどで終わった。
 結果は、異常は見つからなかった、というもの。もっと率直に言えば、わからなかった、ということだ。
 会計まで30分ほど待つ。
 あの看護婦は、私のおちんちんをくさいと思ったのだろうか?小さいと思ったのだろうか?それともお気に召してくれたとまではいかないまでも、お気に召さなくはなかっただろうか?どうでもいいけど……。と考えていると、会計に呼ばれた。

 立ち上がろうとすると、うっっっ!なんだ、この腹から股間への痛みは!
 麻酔が切れたのだ!
 ものすごい痛みである。
 お金を払い、外へ出る。歩くのがやっとだ。
 腹を押さえながらゆっくりと家へと向かう。
 まるで破水してどうしてよいか分からずさまよい歩く妊婦のような格好だ。
 横断歩道を渡ったとき、信号待ちのドライバーたちは私をどのように見ていたのだろうか?
 家まで1時間かかった。痛みでそれほど歩くのに時間を要したのだ。

 家に着くと、母親が「遅かったねぇ。で、どうだったの?」とまったく心配していないようなことを言う。私は痛みもあって「異常なし」とだけ答えた。

 悲劇はまだ続く。
 よほど中が傷だらけになったのだろう。
 オシッコをするときにものすごい激痛が走るのだ。
 それもスムーズにオシッコが出ない。
 ポタポタポタと1滴ずつしぼり出てくるような感じ。
 その1滴がオチンチンの付け根あたりを通る時に、ひっくり返りそうになるような激痛が全身を走るのである。
 それが3日続いた。

 それからである。
 どうもオシッコが近くなったような気がするのは。
 でも、夜間寝ている間はトイレに起きたりしないので、多分に精神的なものがあるのは分かっている。
 でも、したくなったときに、あまり我慢がきかなくなったのはこの検査以降だ。
 だから、なるべくこまめに、行ける時にはトイレに行くようにしている。
 それが頻尿ならぬ、私の頻尿気味の真相である。



 こうやってみんなに話していても、誰一人同情してくれなかった。
 話すんじゃなかった。