E.エルガー(1857-1934)の未完に終わった交響曲第3番。

 エルガーは、H.パーセル以来200年間にわたって大作曲家を生み出すことができなかったイギリスに現れた作曲家兼オルガニストである。とはいえ、その作風はロマン派にとどまっており、特に国民主義の傾向もみられないのに、祖国イギリスではとても愛好されている。
 その最たる例が行進曲「威風堂々第1番」であるが、日本でも数年前からこの曲がCFや携帯電話の着メロに広く使われるようになったところをみると、日本人も「全般的にイギリス人の音楽としての平均化されたムード」(*1)みたいなものが好きなのかも知れない。なんせアレンジされたものが、アニメ「あたしんち」のエンディング・ソングにも使われてたくらいだから……。それよりも、2005年に著作権が切れたという理由が大きいんだろうな、たぶん。

 エルガーは交響曲を2曲残している。とても魅力的な第1番(変イ長調Op.55)は1907年から翌08年にかけて作曲されている。第1番に比べると退屈な(あくまで私の好みの問題だが)第2番(変ホ長調Op.63)は1910年から11年にかけての作曲である。
 1911年といえば、マーラーが調性が崩れかかった第10交響曲を完成させずに亡くなった年だが、それに照らし合わせると、やっぱりエルガーはロマン派どっぷりなんだなと納得してしまう。

 1920年、エルガーは妻のアリスに先立たれる。
 あの有名な「愛の挨拶」は、アリス(キャロライン・アリス・ロバーツ)と婚約したときに、エルガーが彼女に贈った作品だ。そのとっても作品の対象を失ったのである。
 このときから彼の創作意欲はひどく衰えてしまう。

 それから10年余り。
 エルガーの友人でも会った批評家のジョージ・バーナード・ショウが新たに交響曲を書くことを勧めた。最初は乗り気でなかったエルガーだったが、1932年にショウの働きかけを受けたBBCが正式にエルガーにシンフォニーを委嘱、作曲が始まった。

 ところが1933年にエルガーは病に倒れ、さらに34年には帰らぬ人となってしまった。残されたのは大量のスケッチで、エルガーは未完に終わった場合はそれを焼却するように言ったともいわれるが、燃やされずに大英図書館に保存された。

 この未完の交響曲を補筆完成させようという動きがはじまったのは1993年のこと
 BBCがアンソニー・ペインにそれを依頼したのである。
 ペインについて私は詳しい情報を知らないが、1936年生まれだという。彼は1972年ごろからこの未完成交響曲の研究を個人的に進めていたという。

 残された資料が比較的多かったスケルツォ楽章はすぐに完成したが、ペイン自身補筆ができるのはここまでと考えていたらしく、またエルガーの遺族もそれ以上の補筆は望まなかったため、作業はこれで終わった。
 ところが1995年にあらためてスケッチを見ていたペインは、おおっ!っという閃きで第1楽章を完成。勢いづいたペインは全曲完成を目指し、遺族も反対するのをやめ、1998年に全曲が完成。あぁ、めでたしめでたし、ということになった。

 初演はアンドリュー・デイヴィス指揮BBC交響楽団によって行なわれた。

 このペイン補筆完成版の交響曲第3番が11月14日と15日に行なわれる札幌交響楽団の定期演奏会で演奏される。指揮は尾高忠明。イギリス音楽に造詣が深い尾高がどのような演奏をするのか、期待できる(他の出し物はV=ウィリアムズの「タリスの主題に基づく幻想曲」、ディーリアスの「楽園への道」)。
 また同じプログラムで、毎年恒例の東京公演も行なわれる。11月18日19時から、会場は新宿のオペラシティ・コンサートホール。東京の人、聴きに行ってあげてね!
 さらに、素敵な情報が!(?)
 尾高/札響によるこの曲のCDもリリースされた。signumレーベルのSIGCD118。タワーレコードのネット通販でも扱われている。2,720円。このCD、お得なことに(!)、同じくペインが補筆完成した「威風堂々第6番」もカップリングされている(検索するときは“尾高忠明”をキーワードにするとよい)。

 確かこの第3番、6月の都響の定期でも取り上げられたと思う。プチ・ブーム?

 私が聴いているCD(といってもこの間買ったばかり)は、db489c6e.jpg コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団のライヴ盤。

 えっ?なんでお前は札響のCDを買わないのかって?
 未知の曲だったから、まずはお値段の……

 で、聴いてみた感想だが、イギリスっぽいけどエルガーっぽいと言えるかどうか……という感じの曲である。

 エルガーって、けっこう大音響を鳴らす作曲家だったのだが、そういう点では薬味不足の音楽って印象。肥満体の新聞配達みたいにボワァァァァ~ン、ドッコイショ、エイコラショって始まって、それなりに幸福な日々を過ごすっていうものだ。きっと言ってる意味は理解してもらえないだろうけど。

 気になる方は札響の演奏会に足を運んでいただくか、CDを買ってみてください(もちろん札響の)。


*1) 井上和男 編著「クラシック音楽作品名辞典」 三省堂