D.ショスタコーヴィチの交響曲第15番イ長調Op.141 (1971)の第4楽章。
前回はこの楽章の第1部にあたる部分について書いたが、今日はその続きのパッサカリアの部分について。
まずはザンデルリンク盤CD(エラートWPCS5539)の森泰彦氏による解説の該当部分。
《(やがてすべてはe音に吸収され)この音を伴奏に、展開部がわりのパッサカーリアがはじまる。gis-disに半音上のa-eがつづくことで第1楽章の基本動機に関連する主題は、計8回くりかえされ、悲劇的な高まりが形成される。これがたちまち死に絶えると……》
このあとは再現部の話になるので、今日はここまで。
さて、練習番号125からはじまる中間部はパッサカリアである。
パッサカリアとは、シャコンヌとともにバロック時代の重要な変奏 曲形式で、一定のバス・オスティナートの上に変奏楽句を連続させるものである。オスティナートとは、1つの明確な音型を、同一声部、同一音高で執拗に繰り返すことをいう。
つまり、第15交響曲の第4楽章中間部は、低音部に執拗に繰り返される音型の上に変奏楽句が続くわけである。
バスのオスティナート主題は譜例23(掲載スコアは全音楽譜出版社のもの。以下、特に断りがない場合は同様)の矢印箇所ではじまる。
この低弦のピッツィカートによる主題は14小節か ら成っており8回繰り返される(すなわち、譜例23の練習番号126からが2回目となる)。オスティナート主題は彼の第7交響曲「レニングラード」第1楽章の“戦争の主題”によく似ている(譜例24)。第7交響曲において、この主題は11回の変奏曲として展開されるのである。しかし、これを自作の回想のために用いたというだけでは済まないようだ。というのも、このオスティナート主題は、F.J.ハイドンの交響曲第104番ニ長調「ロンドン」(1795)の序奏主題(譜例25。スコアは全音楽譜出版社のオイレンブルク版)と同じなのである。
私はハイドンの交響曲についてほとんど知識を持っていないが、これは単なる偶然なのだろうか?いや、絶対なんか意味があるよなぁ……
譜例26の部分では、第1ヴァイオリンとチェレスタがこの楽章の副主題っぽいものを弾く。ところがこれは、高音声部に移されて拡大されたオスティナート主題でもあるのだ。
「すべてが繋がっている……」。羊男に会った後の「僕」のように、私は思ってしまう(←この意味分かる人、偉いです)。
それにのって吹かれるホルンの旋律のうつろさ、不安定さ!ほとんど「らりって」いる。
そして8回目。ついにオーケストラが爆発する(譜例27)。この楽章においても、オーケストラが叫ぶのはここのわずかな部分だけである。
このクライマックスのあと、打楽器群がその余韻のようにリズムを刻む。何か訴えたげに……
練習番号138(249小節目。譜例28)では、弦全体がピッツィカートで“運命の主題”を暗示する(かなり分かりずらいが)フレーズを弾くが、ここの部分はまた、副主題をも連想させる。これは実は、オーボエによって最初に副主題が吹かれるときに先立って、金管が吹いていたものと同じである。
「やっぱりすべてが繋がっている……」
そのあとすぐに、ファゴットが副主題を吹く(譜例29)。これはクラリネットに引き渡され、クラリネットは8分の6拍子のフレーズも吹く。つまり、第1部から中間部への橋渡しをしたこのフレーズが、今度は中間部から再現部への橋渡しも担う。
このあと、再現部に入る。
涙なくして語れない再現部については、 次回に譲ることとする。
矢野暢氏は「20世紀の音楽 ―意味空間の政治学―」(音楽之友社)のなかで、第15交響曲について「この曲は、ショスタコーヴィチ自身が最後の交響曲になるだろうことを潜在的に意識して書いたものとして聴くと、趣旨がよく読みとれるように思う。ここでは、体制からも歴史からも離れ、抽象的な人間からも離れ、かれはかれ自身にもどっている。その意味で、ショスタコーヴィチを理解するうえで大事な作品であるといえる」と述べている。
声をひそめた再現部では、その総まとめが行われることになる。
新館入口(2014.6.22~)
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