森達也 著「
王様は裸だと言った子供はその後どうなったか」(集英社新書)。
タイトルに惹かれて買い、読み始めた時には私好みじゃないかなとも思ったのだがその失敗感は最初だ。なかなか考えさせられる「創作話」集だった。
著者のことを私はまったく知らなかったのだが、映画監督でありドキュメンタリー作家なんですね、森さんって。
本書は著者が太宰治が「お伽草紙」を執筆した手法を真似て書いたもの。つまり、太宰が古典作品を題材にして、そこに新しい解釈を加えて再構築していったのと同じように、著者も既成の物語に触発されて創作するという手法を試みたというのである。
この中では第2話の「桃太郎」がいちばん個人的にはおもしろく、マスコミの怖さをあらためて考えさせられた。
時代設定はもちろん現代。
もう人間たちと無用な争いをすることをやめて久しい鬼が島の鬼たちは、自給自足で平和にくらしていた。そこに正義感の強い優秀なジャーナリストである桃太郎が取材に行く。桃太郎は、自分の使命は鬼たちの悪事を暴いて世間に伝えることと確信している。
島に着いた桃太郎が最初に目にしたのは、浜辺でモリやヤスで魚を獲っていた鬼の子供たち。カメラを回しながら、桃太郎は「鬼の子供たちが魚を虐待している」と実況しながら子供たちのもとへ走っていく。驚いた鬼の子供たちはパニック状態になって逃げ出す。すると「やましいことがあるから逃げる」と声を吹きこむ。子供を助けにきた親オニも悪者に仕立て上げられ……
こうやって鬼たちは極悪で存在してはならないものとして放送される。
ひどい。
自分と同じような境遇にいるオニに深く同情する。
さらに感心(?)したのは、「報道の使命は報せることと悪を絶つことです。反抗する悪には、中学の卒業アルバムの顔写真と、ビデオ屋でレンタルしたビデオやDVDのリストを日本中に晒すという奥の手があります」という記述。
著者が映画監督という映像に携わる人であるから、その恐ろしさには説得力がある。
やれやれ……
家の中にHなDVDを隠しておくなんて、とっても危険だな。
全部で15話からなるこの本、第1刷が刊行されたのは昨年夏で、いまさら読んでいる私は遅れているのだろうが、まだの方にはぜひお薦めしたい。
新館入口(2014.6.22~)
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