連休最後の日、みなさまいかがお過ごしでしょうか?世の中は「成人式」のようでございます。相変わらずバカなことをやらかしている新成人もいるようですが、こんなことをやらかず場のために税金を使うのはいかがなものかと思ってしまうのは、冷たいことでしょうか?
私はと言えば、昨日の雪かきのせいで、腕は付け根から邪魔物のようにだるく、腰は今時期の鏡餅のように固く、背中は借り物のような違和感があります。
昨日の朝も除雪車の音で目ざめ、外へ出ると、気温が多少高めだったのでしょう、けっこう重い雪が積もっておりました。
そのときに、ふと空を見上げたのが悪かったのです。というのも、そのとき私の目に入ってきたのは、無言の悲鳴をあげているような、カーポートと物置の屋根だったわけです。屋根は「苦しいよぉ。サバ折り状態だよぉ」と嘆き苦しんでいるように思えました。
「いけないわ!いつの間にかあんなに積もっている。しかも、この重い雪!雪下ろしをしないとつぶれちゃう!」
心の中で、ちょっぴりハイジの口真似なんかしながらそう叫んだ私は、結局雪下ろしを決行したのです。放っておくことができないこの律儀な性格。損な性格……
雪かき、雪下ろしを終え家に入ると、長男がリビングのソファでパジャマ姿のまま朝刊を広げて読んでおり、私の姿を見て(メガネはくもり、水っぱなが垂れていたと思います)「ご苦労さんですなぁ」とねぎらいの言葉をかけてくれました。これで私の疲れもすっかりと吹き飛びました。
……じゃあない!
私は彼を非難した。スヴェトラーノフみたいな顔つきで「少しは手伝っていただけませんか?」と。
「いやぁ、そのままにしておいてくれたら、雪かきしようと思ったかもしれないけど」と、結婚詐欺師みたいなどうも信じられないいい加減なことを言う。
私はほかの近隣住宅が雪かきを終えたあとも、自分の家だけが手つかずのままで、かろうじて朝刊配達員の足跡だけが残っているような状況が、貧乏ったらしくて厭なのだ。貧乏は現実だけで十分だ。
しかも、そのままにしておいてくれたら、だと?こんな重い雪、時間とともに締まっていき、扱いが大変になるのだ。
やれやれ……
♪
さて、今日はA.ボロディン(1833-87)の歌劇「イーゴリ公」である。
1869年から書き始めたが、結局未完のまま終わってしまった。
それを第4幕のオペラとして補筆完成したのは、これ まで書いているようにR=コルサコフとA.グラズノフであるが、ボロディンが亡くなった時に完成していたのは、「プロローグと最初の合唱」「ポロヴェッツ人の踊り」「ヤロスラヴナの嘆きのアリオーソ」「ウラディミール・ガリツキーのレチタティーヴォとアリア」「コンチャック汗のアリア」「コンチャコヴナとウラディーミール・イゴーレヴィッチの二重唱」「終幕の合唱」だけで(「だけで」の割に覚えにくい登場人物の名前が多く、私としても申し訳ない気がする)、ほかには第2幕までのピアノ譜が大部分ボロディン自身によって仕上げられていた。それ以外はスケッチのままであった。
なお、補筆完成されたオペラ全曲は29曲から成り、演奏には3時間余りを要する。
物語の筋であるが、時は12世紀(具体的には1185年)のキエフ公国の分裂時代。ノヴゴロド・セヴェルスキー公のイーゴリが、南方の草原地帯からロシアに侵入してきた遊牧民族ポロヴェッツ人と戦うが、不幸にして囚われる。しかし、イーゴリ公は脱走して祖国のために戦う、という愛国物語である。
台本は中世叙事詩「イーゴリ遠征譚」(原書ではなく、スターノフ が写本からまとめた筋書き)と僧院文書「イパチェフスキー年代記」から、ボロディンが書いた。 このオペラでは、たとえば「韃靼(だったん)人の踊り」などのように 「韃靼人」という民族が出てくるが、現在では韃靼人ではなくポロヴェッツ人と呼ぶことが増えてきた。というのは、韃靼人はタタール人の中国名であり、「イーゴリ公」に登場する民族とは異なるからである(ただし、ロシア人は東方遊牧民族全体をタタールと呼ぶことがあり、それからするとポロヴェッツ人も広い意味で韃靼人に含むこともできる)。
ポロヴェッツ人は11世紀に黒海北岸から南ロシアに姿を現した遊牧民で、13世紀にモンゴルの侵攻によって絶滅した。
韃靼といえば、近年は“韃靼そば”というのが有名だ。“韃靼そば”なるものを、そのままふつうの蕎麦のように出している店があるのかどうかは知らないが、ここ数年、蕎麦屋の店内にやたら“韃靼そば茶”のポスターが貼ってある。これは北海道だけの現象なのだろうか?“韃靼そば”は、ふつうの蕎麦よりもルチンが多く、血管に良いらしいのだ。
ちなみに、私は健康のために、毎日ではないが“だったんそば ふりかけ”を食べている。ちょっぴり苦みがあって、体に良さそうではある。 オペラ全曲を聴くことはなかなかしんどい。
というのも、ボロディンがスケッ チしか残さなかった後半の2幕にどうしても弱さがあるからである。それでも、はっとする音楽が含まれてはいるが……
今日でもよく聴かれる「序曲」「ポロヴェッツ人の娘たちの踊り」「ポロヴェッツ人の踊り」(もう1曲、男声合唱による「ポロヴェッツ人の行進」も、これら3曲に比べるとメジャー度では劣るが、すばらしい)で、このオペラの魅力はすべて網羅しているなんて言う気はまったくないが、ここでは序曲について触れておく。
序曲はボロディンが生前にほぼプランを固めており、ボロディン自身が弾いたピアノ演奏の記憶と残されたスケッチによって、グラズノフが完成した(こう考えると、ボロディンがピアノで弾いた演奏の記憶がある曲については、グラズノフは実に“ボロディンっぽい”曲に仕上げてくれているわけである)。曲は劇中のいくつかの旋律を用いている。
私はこの曲でも、ボロディンの特徴である、分かりやすい旋律の絡ませ方に、すっ かり“ホの字”である。
曲の開始まもなくで現れる、クラリネットによる躍動的な旋律(譜例1の矢印部分。掲載したのは全音楽譜出版社のスコア。以下同)と、ホルンによる牧歌的な旋律(譜例2の矢印部分)。これが曲の終りには同時に進行するが(譜例3の2つの矢印)、これだけで私は喜びは100%である。こんな幸せな感動がほかにあるだろうか!(たぶんある。それに「不幸な感動」っていうのもない。)
「序曲」のCDだが、ボロディンの第3交響曲のときに紹介したアンセルメ盤も悪くないが、ここではより土臭くて迫力満点のE.スヴェトラーノフ指揮ロシア国立響の演奏を挙げておく。ジャケット写真(写真・下)を見ても、スヴェトラーノフのポロヴェッツ人に対する戦いの意気込みが感じられる(違うって!)。ロシアのオーケストラはただ大音響でバカみたいに鳴らすだけ、みたいに軽蔑するむきもあるが、ボロディンなどの音楽(国民楽派系)をこういった演奏で聴くと、その鳴らし方に必然性を感じてしまう。朝から聴くと、一日中、上がった血圧が下がらないと思う。
RCAのBVCC38201~02(2枚組)。「イーゴリ公」序曲の録音年は1992年。ほかに、「イーゴリ公」からは「だったん人(ポロヴェッツ人)の行進」(「ポロヴェッツ人の娘たちの踊り」でないところがソソル)が収められており、さらに交響曲全3曲と「小組曲」も収められている。
全曲盤で私が持っているのは、M.エルムレル指揮のボリショイ劇場管弦楽団、同合唱団による演奏。ソリストはイワン・ペトロフなど。
この演奏もすごい力強さ。序曲から「イケイケ、ゴーゴー」(テンポが速い)。ただ、1969年の録音のわりには音の混濁が多い。
新館入口(2014.6.22~)
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