もう30年以上前の話になってしまうが、高校を卒業した私はそのままいさぎよく浪人生活に入った。しかも、「タクロウ」、つまり自宅浪人である。
なぜ予備校に行かなかったのか?
毎日のように学校に通うのが嫌だったからである。
この1年は、通学という行為に煩わされることなく、自由に時間設計して過ごしたかったのだ。結果的には、だからその後もまた失敗したわけだけど(おまけに自由に時間設計できる期間は2年に及んだし……)。
予備校に通っていた連中がたまに、その帰りに我が家に遊びに来ることがあった。彼らは予備校から自分たちの家とはまったく反対方向の、それも決して近くはない我が家に来るのだった。そして、皆で百人一首やら、トランプの七並べや、ブラックジャックをして遊んで行くのだった。説明するまでもなく、百人一首は古語の、七並べは数列の、そしてブラックジャックは確率の勉強のためである。
夏が過ぎたとき、彼らから同学年だったA君が亡くなったということを知らされた。実は彼らもリアルタイム情報としては知らなかったのだ。
A君とは2年生のときに同じクラスで、在学中は交流はそこそこあったのだが、卒業後はまったく連絡していなかった。彼もタクロウしているらしいという情報があっただけであった。
病死であった。
卒業を体調を崩し入院したが、わずか4カ月ほどでこの世を去ったのだった。
あとから知ったので葬式には行けなかったが、49日法要にはなぜか私も呼ばれた。そのときのお母さんのサバサバした様子が、逆に痛々しかった。
確か原因はガンだったと思う。
若いころは学校の健康診断くらしか検診を受ける機会がない。だから異常の発見が遅れる。過度に不安がる心配はないのだろうが、若いゆえに進行も速い。若いうちからそれなりの検査は受けるべきだと思っている。 そのころよく聴いていたのが、C.P.Eバッハの「ピアノ・ソナタ ニ短調Wq.57-4」、そして、W.F.バッハの「幻想曲ニ短調F.19」(1733-46の間に作曲されたとされている)だった。
この2曲は私にとって、突然襲ってくる死の不安と、知っている人間が突然姿を消してしまう悲しさを想起させる。
C.P.E.バッハのソナタの方は、大きな作品集のなかの1曲で、ここで取り上げると話が長くなるので明日以降、ということにし、今日は大バッハの長男ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(1710-1784)の作品について。
この曲は「10のファンタジアF.14-23」の中の1曲。
不安げな感じがする細かな音型が運動するところから始まる。不安げな感じというのは、友人の死と結びついているから、という理由からだけではない。私の個人的体験とは別にしても、彼の音楽は、いつもどこか不幸せな影を引きずっているのだ。でも、美しい。彼の苦悩がそのまま音楽になったかのようだ。そして、まだ見ぬ幸福で安心できる時間を夢想しているようなパッセージも出てくる。
当時私は、エア・チェックしたものでこの幻想曲を聴いていたが、その後カセット・テープで音楽を聴くことをやめてテープをすべて廃棄してしまったあとは、ずっと耳にできないでいた。テープを廃棄したのは今から20年ほど前のことである。
ところが昨年、ナクソスからCDが出ているのを発見!もちろん即購入!
こういうときの喜びがいかに大きいか、ご想像していただけるだろうか?
そのCDはW.F.バッハの鍵盤楽器作品集の第2集というもの。
ジュリア・ブラウンのチェンバロによる演奏で、録音は2007年。「幻想曲ニ短調」を含め全部で14の作品が収められている。NAXOSの8.570530(輸入盤)。タワーレコードのオンラインショップに在庫あり(下記参照)。
なお、本作品については、昨年も一度書いてあるので、重複する点はあるが、良ければご覧ください→こちら。
W.F.バッハは父親の偉大さからのプレッシャーからか、人格破壊的になって、才能を開花することなくこの世を去った。しかし、このCDを聴くだけでも天才であることがうかがい知れると言えるのではないだろうか?
それは、弟たちと違い、どちらかと言えば父親寄りの音楽と言えるかも知れない。
新館入口(2014.6.22~)
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