301134ed.jpg  トーマス・マンの「だまされた女/すげかえられた首」(岸美光 訳。光文社古典新訳文庫)を読んだ。

 このなかの「だまされた女」のなかに、こういう一節がある。

 「クロッカスってイヌサフランにそっくりよね。同じ花みたい!始まりと終わり―取り違えてしまいそう、それほどよく似てるわね、―クロッカスを見ると秋に戻ったような気がするし、別れの花を見ると今は春かと思うわね」

 ちょっと紛らわしいが、ここで主人公であるフォン・テュムラー夫人が言っていることは、春の花であるクロッカスをイヌサフランに見間違えて、春なのに秋だと思うことがある。逆に、秋の花であるイヌサフランをクロッカスと間違えて、そのときが春であると勘違いしてしまう、ということだ。

 私はサフランとクロッカスは同じもので、名前が2種類あるのだとずっと思っていた。
 ところがちゃんと調べてみると、小説に出てくるイヌサフランとサフランは、これまた別物であることがわかった。

 まずイヌサフラン。学名はColchicum autumnale L.で、Colchicumというのは黒海の沿岸にある地名からきている。autumnaleは「秋の」という意味。学名がこうなんだから、どう考えても秋の花なのだろう。ユリ科のイヌサフラン属の植物で猛毒。トロポロナルカロイドという物質を含み、痛風発作の痛みを緩和する薬効があるという。だったら、我が家の庭にも植えたくなっちゃうじゃないか!
 しかし、毒草である。昔、札幌で、春にイヌサフランの新芽をアイヌネギ(ギョウジャニンニク)と間違えて食べ、食中毒を起こした事例があるという。どうして食べる前に臭いで気がつかなかったのか不思議ではあるが……

82345394.jpg  じゃあサフランは、というと、これはアヤメ科クロッカス属の植物で、イヌサフランとは科からして違う。秋咲き。学名はCrocus sativus L.。このサフランはめしべを乾燥させたものが香辛料として有名。
 さらにクロッカスは、サフランと同じアヤメ科クロッカス属の植物である。サフランの花は紫のものしかないのに対し、クロッカスは白やオレンジなどの花色がある。別名は花サフラン、春サフラン。つまりは観賞用のサフランってことだ。学名はCrocus L.。
 なぁ~んだ、じゃあサフランとクロッカスが同じだと勘違いしていた私は、まだ罪が浅いわけだ。ほれ、白いクロッカスをご覧なさい!

 ところで、マンの「だまされた女」だが、未亡人が息子に英語を教えに来ていた若い男に恋をするというもの。しかし、その結末は意外だったなぁ。
 彼女は何にだまされたのか?
 それは読んでのお楽しみである。

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 花の話ついでに、花にまつわる音楽をご紹介。
 J.シベリウス(1865-1957)の「5つの小品『花の組曲』」Op.85(1916)。
 原題は「5 Pieces (Die Blumen)」。5つの小品ってくらいだから5曲からなるが、それぞれは、
 1. ひな菊 Bellis
 2. カーネーション Oeillet
 3. アイリス Iris
 4. 金魚草 Aquileja
 5. つりがね草 Campanula
である。
 やさしさとおだやかさを湛えた小品たちである。
 えっ?クロッカスもサフランもないじゃないかって?
 ワタシ、ハイッテルナンテ、ヒトコトモイッテナイヨ。

 シベリウスは同じ「5つの小品」として「樹の組曲」というのも書いている(Op.75。1914)。
 これは、1.ピヒヤラの花咲くとき/2.さびしい樅の木/3.ポプラ/4.白樺の木/5.樅の木、の5曲から成るが、取り扱われている木の名前がいかにも北欧的である。ピヒヤラって何かしらないけど……。どっちにしろ、ここでタコノキとかテーブルヤシってきたら、私ずっこけます。

ecf4c333.jpg  CDではナクソスから出ているR.ラウリアラ(Risto Lauriala)のピアノによるものをご紹介しておく。廉価盤だから、まだこの作品を耳にしたことがない人は試しに買ってみてはいかがでしょうか?っと……
 
 このCDには「花の組曲」以外に「樹の組曲」、「キュリッキ―3つの抒情的作品Op.41」、「5つの特徴的印象Op.103」、「6つの即興曲Op.5」、「フィンランディアOp.26」(作曲者自身によるピアノ編曲版)が収められている。1995年録音。ナクソスの8.553631。

 「6つの即興曲」のなかの第5曲(ロ短調)は、私がソートウ好きな曲。
 なんと表現したら良いかわからないぐらい、心にしみ入る曲。
 1992年10月の札響定期に舘野泉が客演し、ハチャトゥリアンのピアノ協奏曲をやったのだが、そのアンコールとして弾いたのがこの曲だった。これ1曲を聴くだけでも、このCDは価値あり、と思っている。

 どーしようもない話をついでにすると、「5つの特徴的な印象」の第1曲は「村の教会」。
 中学1年生のときに、わがクラスが合唱コンクールの自由曲で選び歌ったのものが「村の教会」という曲だった。もちろん、シベリウスの曲とは関係ない。
 なんだかメリハリがない曲で、しかも合唱は下手(私はそのなかの構成員の1人であったわけだが)。シベリウスのピアノ曲のタイトルを見ると、あのくらーい練習の日々を思い出す。

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 昨日の日曜日。夕方にスピード違反で捕まってしまった。
 岩見沢近くの国道。
 前には車がなく、信号待ちのあと調子に乗って快適に走っていたら、覆面パトカーに追いつかれた。
 信号待ちの時に、後ろに軽トラックとクラウンが停まっていたのは確認していたが、そのクラウンが覆面パトカーだったのだ。
 ふだんだったらクラウンのような車種はスピードを出すという前提のもと、あるいは覆面の可能性を考慮し先に行かすのだが、昨日はそういう配慮も注意も欠いていた私。
 60km制限のところを17kmオーバー。罰金12,000円。
 ふだんは行くことなんてない岩見沢に、買い物をしに行こうと考えたのが悪かった。100円ショップなら、税別で120もの商品が買えてしまう。
 加えて、新しいタイヤの「転がり抵抗」があまりにも低かったのか?
 あぁ、クラウンにだまされたのよ、私!

 いえ、スピードを出し過ぎた私がいけないのです。
 免許をとって二十余年。はじめて捕まりました。初体験です。
 いままでたまたま運が良かったのかも知れません。
 これからはきちんと安全運転を心がけます……