42a48414.jpg  バロック音楽の代表的作曲家ながら、実はその音楽は“非典型的バロック音楽”であるヨハン・セバスティアン・バッハ(Johann sebastian Bach 1685-1750)の作品から、今日はバッハの作品中でも意外と地味な存在であるハープシコード協奏曲をご紹介。

 J,S.バッハの書いた曲が、実は典型的なバロック音楽ではないということは、岡田暁生著「西洋音楽史」(中公新書)の紹介も兼ねて以前に書いた
 そのバッハはハープシコード(チェンバロ)のための協奏曲を13曲も残している。
 1台のためのもの(つまりソロ・コンチェルト)が7曲(+未完1曲)、2台用が3曲、3台用が2曲、4台用が1曲である。
 こんなにあるのに、しかもバッハといえば鍵盤楽器という印象が強いのに、なぜ彼のハープシコード協奏曲はイマイチ人気が出ないのか?
 それは、バッハのハープシコード協奏曲のほとんどが、自作または他者の作品の編曲であるという理由によるようだ。

 バッハの時代には協奏曲と言えばコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)であった。しかし、事情が変わってきた。
 イタリアでソロ・コンチェルトが流行し始めたのだ。
 バッハはその影響を受け、それまで通奏低音の役割を担っていたハープシコードを独奏楽器にすることを考え、旧作などの編曲によってハープシコード協奏曲を書き上げたをのである。
 オリジナルのハープシコード協奏曲を書かなかったわけは、この時期、ライプツィヒの教会音楽家に就いており、その職務が多忙だったことと、同じ時期に就任したアマチュア楽団「コレギウム・ムジクム」の指揮者も勤めていたことで、バッハはこの楽団の定期演奏会ために曲を書かねばならなかったが、忙しくて新作ばかりを書いている余裕がなかったというわけだ。

 それぞれの曲とその原曲は次のとおりである。

 【1台用】
 
 ♪ 第1番ニ短調BWV.1052(1735⇔1740頃)
   ヴァイオリン協奏曲の編曲?(原曲不明。疑作。異稿ありBWV.1052a)
 ♪ 第2番ホ長調BWV.1053(1735⇔1740)
   オーボエ協奏曲の編曲?(原曲不明)
 ♪ 第3番ニ長調BWV.1054(1735⇔1740頃)
   ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV.1042(1717⇔1723)の編曲。
 ♪ 第4番イ長調BWV.1055(1735⇔1740頃)
   ヴィオラ・ダ・モーレ協奏曲BWV.1055aの編曲?(原曲不明)
 ♪ 第5番ヘ短調BWV.1056(1735⇔1740)
   ヴァイオリン協奏曲の編曲?(原曲不明)
 ♪ 第6番ヘ長調BWV.1057(1735⇔1740)
   ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調BWV.1049の編曲。
 ♪ 第7番ト短調BWV.1058(1735⇔1740)
   ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調BWV.1041(1717⇔1723)の編曲。
 ♪ 第8番ニ短調BWV.1059(断片。1730頃)

 【2台用】

 ♪ 第1番ハ短調BWV.1060(1735⇔1740)
   オーボエとヴァイオリンのための協奏曲ハ短調BWV.1060aの編曲?
 ♪ 第2番ハ長調BWV.1061(1735⇔1740)
 ♪ 第3番ハ短調BWV.1062(1735⇔1740)
   2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV.1043(1717⇔1723)の編曲。

 【3台用】

 ♪ 第1番ニ短調BWV.1063(1735⇔1740)
   フルート、オーボエとヴァイオリンのための三重協奏曲BWV.1063aの編曲?(原曲不明)
 ♪ 第2番ハ長調BWV.1064(1735⇔1740)
   3つのヴァイオリンのための協奏曲BWV.1064aの編曲?疑作。

 【4台用】

 ♪ 4台のチェンバロのための協奏曲イ短調BWV.1065(1735⇔1740)
   ヴィヴァルディの「4つのヴァイオリンと弦楽のための協奏曲」Op.3-10(RV.580)の編曲。

 というわけだ。

 先に書いたようにバッハの作品としては人気が高いとは言えないが、でもそこはやはりバッハ。ハープシコードの織りなす緻密な響きは、鑑賞レパートリーからはずせない。

 私が持っているCDはG.レオンハルト他の独奏、レオンハルト合奏団他の演奏で、ソロ・協奏曲の第1番から第6番までと、3台用の第2番が収録されている(テルデックWPCS4103-04。2枚組)。現在廃盤中だけど……