札幌交響楽団の第519回定期(5月30日15:00~。Kitara)。
曲目はモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」とR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。指揮は尾高忠明。
「ドン・キホーテ」のソリストは、ともに札響の首席奏者である石川祐支(vc)と廣狩亮(va)。
まず、私は今回、初めてKitaraの3階席(のセンター)に座って聴いたのだが、席のせいなのか、2曲ともオーケストラの音が薄く聴こえた。左右のバランスは良いのだが、密度の低い音であった。その点は差っぴいて感想を書く。 モーツァルトの「ジュピター」はとても優等生的な演奏で、細かなところでは多少の乱れがあったものの、全体的には好感のもてる演奏。スタイルは1970年代ころの典型的スタイルほどはロマン、ロマンしていないが、かといってピリオド的なシャープさもない。良い演奏なのだが、どこか心に迫ってくるものが希薄[E:heart03]。
尾高のモーツァルトでは、昨年の定期で第40番を聴いたが、そちらの方が切れ味がよかった。尾高のアプローチが微妙に変わったのか、それとも座席の影響もあるのか?
ただ、最後の感動的なフーガはいたずらに大仰にならず、それがかえって締まった印象を与えてくれた。
「ジュピター」の聴き比べについては、今年の3月に書いたので、よろしければ読め!
いただけなかったのは、「ジュピター」が終わったあとの最初のカーテンコールで、尾高がマイク[E:karaoke]を持って、来る6月3日にKitaraで行なわれる「現代日本オーケストラ名曲の夕べ」の、簡単にいえば宣伝スピーチをしたこと。話の内容は、チラシに書いてあるメッセージにやや肉付けしたもの。 言ってしまえばさほど感動的な「ジュピター」ではなかったものの、それでもすぐに拍手を中断しトークを、それも演奏会の宣伝をするのは、演奏の余韻を自ら壊すようなもの。演奏会の性格上チケットの売れ行きが悪いのだろうということは想像に難しくないけど、もっと別なやり方があったのではないか?
後半のR.シュトラウス(Richard Strauss 1864-1949)の交響詩「ドン・キホーテ(Don Quixote)」Op.35(1896-97)は、札幌では昨年のPMFで取り上げられた作品。札響のプログラムには前年にPMFで演奏された曲のどれかが定期で取り上げられるという話を聞いたことがあるが、今回もそう。何か特別な理由でもあるのだろうか?
去年のPMFのこの演奏会、結局私は行かなかったんだけど、その理由は「こちら」に書いてある。
「騎士的な性格の1つの主題による幻想的変奏曲」(Fantastische Variationen uber ein Thema ritterlichen Charakters)という副題がついたこの巨大な変奏曲は、一歩間違えるとダラダラとした演奏に陥る危険性があるが(ただし、「ドン・キホーテ」は、R.シュトラウスのほかの交響詩に比べても、筋がわかりやすいと思う)、札響の演奏は(そして尾高は)、この「騎士道の本に感化された“いかれた老人”が、騎士の格好をして放浪する」という物語を、シャキッとした演奏で聴かせてくれた。各パートの技術も、そしてもちろんソリスト2人も高い水準だと感じた。
この作品、CDではわかりにくいが、生で聴くと独奏のチェロやヴィオラの音がオーケストラに埋もれてしまわないように配慮して書かれているようだ。
この曲に関しては、私は珍しくカラヤン盤(1975年録音)を好んで聴いてきたのだが、こうやって実演を耳にすると、カラヤンの演奏は表面的な流れを美しく聴かせることに重きを置いていて香辛料が効いていないと思った。これでは各楽器がどのように参加し鳴っているのかという見通しや面白さがわからない。実際、この演奏会では新たな響きの発見があった。
ということで、今日からはジンマン盤を聴いている。
それにしても、この曲の、特に「ドン・キホーテの騎士の本質的な騎士の性格を示す明るく気まぐれな雰囲気」の第1主題(掲載した楽譜の部分。掲載したスコアは全音楽譜出版社のEulenburg版)を聴くと、私は高校1年生の春を思い出す。
高校に進学したとき、私の生活は大きな変化を強いられた。
それまで自宅から徒歩2分で学校に行けた中学生生活から、朝6時に起きなければならない過酷な通学環境となったのだ。
そのときに、目覚まし時計がわりに音楽で起きることにしたのだが、よく使っていたのが「ドン・キホーテ」やベルリオーズの「イタリアのハロルド」、ストラヴィンスキーの「火の鳥」であった。
どれも朝の目覚めのために推奨できるような作品ではないが……そんなの私の自由だ。
もっと寝ていたいようぉ~、というそんな日々のなか、毎朝のように聴いている作品に良いイメージを抱くわけがない。つまり、「ドン・キホーテ」は私にとって心の闇の音楽となった。音楽作品には罪はないのに……
ところが今から10年ほど前のある日あるとき、無性にこの作品を聴きたくなった。
聴きたくなったらもう我慢できない。メスに飢えた狼(オスの)のように、私はCDを求めに出かけた。そのとき店頭にあったのはカラヤンが指揮している盤だけであった。カラヤンが演奏するCDは 極力買うのを避けてきたのであるが、このときはしょうがなかった。すぐに欲求を満たす必要があったのだ。性犯罪に走らないために。こうして、私はカラヤン盤を買ったのだった。
ジンマン盤はあまり聴いてこなかったが、今日になって視点(耳点?)を変えて聴いてみると、むしろ音量バランスなんかもこちらの方が「真っ当」のように思えてきた。
録音のせいもあるのかもしれないが、細かな音まで良く聴こえてくるし……
うん、間違いないっ!
録音は2003年2月。オーケストラはチューリヒ・トーンハレ管弦楽団。ソロはトーマス・グロッセンバッハー(vc)とミシェル・ルイリー(va)。レーベルはアルテノヴァ・クラシック。カップリングとして、「ロマンツェ ヘ長調AV.75」と「13管楽器のためのセレナード変ホ長調Op.7」が収められている。お値段もお安くなっております。
とかなんとか言って、「ドン・キホーテ」のことを、学生のころは「ドンキ・ホーテ」と区切って言っていた私。はずかし、しくしく……
5月の札幌はライラック祭りがあった。
遅ればせながら、わが庭のライラックも満開、というより盛りを過ぎた。
明日から6月。
昨日からはカッコウの声も聞こえる。
カッコウが鳴くと、種まきの季節だという人(たいていは老人)もいる。
カッコウって素敵だ!
トラックバック一覧
-
1. 札幌交響楽団 第519回 定期演奏会
- [かまど姫の「それってど~なの?」]
- 2009/05/31 20:30
- わたくしいつも思うんだけど、マエストロチュー指揮の演奏会は、とっても崇高なる精神
コメント一覧 (1)
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MUUSAN
クラシック音楽、バラ、そして60歳代の平凡ながらもちょっぴり刺激的な日々について、「読後充実度 84ppm のお話」と「新・読後充実度 84ppm のお話」の2つのサイトで北海道江別市から発信している日記的ブログ。どの記事も内容の薄さと乏しさという点ではひそかな自信あり。
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私も、あの尾高さんのMC、違和感を感じました。尾高さんのトークはウィットがあって面白いんですから、もっと違うシーンでされればよかったのに。
その演奏会自体は面白そうなのに、券売が思わしくないんですね。札幌在住だったら行くのになぁ。他のオケメンバーと他流試合みたいなの、面白そうだと思うんですが。