89eaf49b.jpg  ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich 1906-1975)が残した作品の中で、記念すべき作品番号が1のものは「スケルツォ嬰ヘ短調(Scherzo)」(1919)というオーケストラ曲である。
 私はこの曲を1993年4月19日の札響第346回定期で知った(指揮は外山雄三)。

 ショスタコーヴィチのこのスケルツォの最後の力強く奏されるメロディーは、モンテヴェルディ(Claudio Monteverdi 1567-1643)の「祝福されし聖母マリアのための晩課(聖母マリアの夕べの祈り。Vespro della beata Vergine)」(1610刊)の第6曲「われ、喜べり(Laetatus sum)」で低弦がボンボンボンと刻む旋律に似ている。これは単なる偶然なのだろうか……
 この「聖母マリアの夕べの祈り」(「ヴェスプロ」って言うと、とっても通っぽくて、ちょっと嫌な奴になれる。「モンテのヴェスプロ」なんて言うと、怪訝な顔をされること間違いなし[E:sign01])の第6曲は6声と通奏低音によって演奏され、詞は詩編の121篇である。

 ショスタコーヴィチの「スケルツォ」で私が持っているCDはロジェストヴェンスキー指揮のソヴィエト文化省交響楽団(?)のもの。2枚組で、主にショスタコーヴィチの初期作品が13曲収められている。Op.7の「スケルツォ」も収録されている。1979年から85年にかけての録音。BMG-CLASSICSのメロディア・レーベルの74321 59058 2であるが、現在は入手困難なようである。
 それにしても、このCDジャケットの絵、もろ昔々のお金持ちのお嬢様って感じで良い良い。振り向いたら若造りのおばあさんって可能性もあるけど。

ba76a689.jpg  さて、「スケルツォ」Op.1の最後に似ていると私に指摘された(といっても時代的にはモンテヴェルディの方がlong long agoに書かれているわけだ。ショスタコは意識してその旋律を使ったのか?)「聖母マリアの夕べの祈り」については、ガーディナーの演奏を私は聴いている(1989年録音)。
 モンテヴェルディはバロック初期の人だが、まだルネサンス様式も引きずっていて、ちょっぴり異質のバロックに聴こえる。そして何より、意外と刺激的というか過激な表情を見せる。

 実は「聖母マリアの夕べの祈り」は、「聖母マリアのための無伴奏6声のミサと、さまざまな声部のための晩課(Sanctissimae virgini missa senis vocibus ad ecclesiarum choros ac Vespere pluribus decantandae)の第2部にあたり、全13曲から成る(第13曲のマニフィカートが7声のものと6声のものの2曲がある。両者は編成以外では「主の祈り」の部分が多少異なる。下記のガーディナー盤では両方が収録されている)。第1部のほうは「無伴奏6声のミサ(Missa da cappella a 6 voci)」で、これはN.ゴンベールのモテット「イエスこれらのことを言いたまいしとき(In illo tempore intravit Jesus)」によるパロディ・ミサだそうだ。
 この「聖母マリアのための~」は、ローマ教皇パウロ5世に献呈されている。