サンスーシ宮殿(Sehloss Sanssouci)。
「プロイセン国王フリードリヒ2世の夏の離宮であったロココ様式の宮殿。1745年から約2年をかけて建てられた。サンスーシとは「心に憂いがない」という意味。広大な庭園には新宮殿や中国茶館など、見どころは多い」と、ガイドブックには書いてある。世界遺産。
スーチー女史とは関係ない、間違いなく。
庭園が実に美しい。そして驚くほどきれいに手入れされている。ウチの近所のオンコ公園とはえらい違いだ。庭は何段かにわたり高くなっていき、丘のいちばん上に平屋の宮殿がある。宮殿からの眺めは絶景に違いない。 フリードリヒ2世(Friedrich Ⅱ 1712-1786)はプロイセンの啓蒙専制君主で、皇太子時代の1728年からフルートの演奏をクヴァンツ(Johann Joachim Quantz 1697-1713)に師事した。また、フルートのための作品を多数作曲もした。
フリードリヒは1740年に王に即位、この年にJ.S.バッハ(Johann Sebastian Bach 1685-1750)の次男であるC.P.E.バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach 1714-1788)が宮廷音楽家として招かれており、クヴァンツも即位の翌年である1741年に宮廷音楽家・作曲家として招かれている。また、この2人に先立って、C.H.グラウン(Carl Heinrich Graun 1704-1759)が1735年に招かれている。この顔ぶれでわかるように、フリードリヒ大王のところでは前古典派の音楽が宮廷音楽の中心とされたのだった。
次男が仕えていたことからJ.S.バッハは王への訪問をたびたび請われていたが、1747年にフリードリヒ大王を訪ねることとなった。
J.S.バッハは王の前で様々な曲を演奏し一同を驚かせるとともに満足させたが、その際にバッハは「フーガを即興演奏するためのテーマをいただきたい」と王に願い出た。その主題を用いて誕生したのが「音楽の捧げ物(Musikalisches Opfer)」BWV.1079である。 掲載した写真の上のものは「音楽の捧げ物」の「3声のリチェルカーレ」の出だしの部分だが、これが「王の主題」である(掲載譜は音楽之友社のもの。以下同じ)。
ただ、即興演奏での出来に必ずしも満足しなかったバッハは、ライプツィヒに帰ってから2曲のリチェルカーレとトリオ・ソナタ、10曲の各種カノンを作曲。その印刷譜を王に献上した。
曲集の表紙に、バッハは「Regis Iussu Cantio Et Reliqua Canonica Arte Resoluta」というラテン語の文を記した。意味は「王の命による主題と付属物をカノン様式で解決した」というもので、ラテン語の頭文字を並べると「Ricercar」、すなわち「リチェルカーレ」となる。なかなかバッハもやるじゃん、って感じである(リチェルカーレというのは今日のフーガとほぼ同義。モテットの流れをくみ、フーガへと発展した模倣様式の対位的楽曲)。 ところで、この宮廷における音楽会で、フリードリヒ大王がフルートを吹いている様子を描いた有名な絵がある。これを見ると「音楽の間」はたいそう広いんだろうと思ってしまうが、実際に宮殿の中を見学してみると、意外と狭かった。
小学校の教室ぐらいの、あるいはもう少し狭いくらいの広さだった。絵にあるように人があんなに入ったら、酸素は希薄になり、ひじがぶつかり合い、共食いが起きかねない状況になってしまうと思われる。 絵は広さをかなり誇張している。秘儀・遠近法、である。
そんな事実を知ったとしても、いま自分が立っているこの部屋で、王が主題を示しバッハが即興演奏したと思うと、自然と強めの尿意をもよおすほど感動的である。
ついでに言うと、昨日載せた偽物大王と本物(絵だけど)とは、なんとなく気品が違う……
「音楽の捧げ物」については'07年11月4日にも取り上げているが、今回は曲そのものについて、ほんのちょっと触れておく(前回はほとんど楽曲そのものには触れなかったので)。 この“特殊作品”は次の楽曲から成っている。
1. 3声のリチェルカーレ
2. 無窮(無限)カノン
3. 各種のカノン
a) 逆行カノン
b) 同度カノン
c) 反行カノン
d) 反行の拡大カノン(副題「のびゆく音とともに王威の栄えんことを」)
e) 螺旋カノン(副題「昇りゆく転調とともに王の名声の隆々たらんことを」)
4. 5度のフーガ・カノニカ
(※ フーガ・カノニカはカノンとほとんど同義)
5. 6声のリチェルカーレ
6. 2声のカノン(謎カノン。原譜に「求めよさらば見出さん」と記されている)
7. 4声のカノン(謎カノン)
8. トリオ・ソナタ(全4楽章)
9. 無窮(無限)カノン このうち演奏する楽器が指定されているのは3-b)のカノンとトリオ・ソナタ、最後の無窮カノンである。
ところで、“謎カノン”といわれるNo.6とNo.7についてであるが、その楽譜を載せておく。No.6についてはヘ音記号が逆さに書かれている。音楽学的なことは私にはわからないが、きちんと考えると解決譜のように落ち着くのだそうだ。また、No.7については2つの音部記号が書かれている。これも、きちんと考察すると解決譜のように落ち着くのだそうだ(こちらの解決譜の写真は途中までしか写っていない。念のため)。
フリードリヒ2世は1786年8月にサンスーシ宮殿で老衰により死去した。第2次世界大戦中、遺体は各地を転々とさせられたが、ドイツ統一後の1991年に墓がサンスーシ宮殿の庭先の芝生に移された。
私も墓を見てきたが、なぜかジャガイモがたくさん供えられていた。
ジャガイモはともかく、そのあたりで私は体調が急速に悪くなっていた。
フリードリヒ大王のお怒りをかった?バッハのねたみをかった?←いったい何の?
いや、原因はわかっている。食べつけていないアイスクリーム&クリーム[E:shock]。昼食のデザートでおなかがゴロゴロ、ピーピーしてきたのだ。おなかの中の横笛が騒ぐのよぉぉぉぉ~っ!(そのときはこんな余裕をかましてられなかったが……)。のりピー、らりピー、げりピー、ピーである。 次の見学先はツェツィリエンホフ宮殿(Schloss Ceeilienhof)。ツェツェバエとは関係ない、間違いなく。
1914年から17年にかけて建てられたこの宮殿は、ホーエンツォレルン家最後の王子、ヴィルヘルムが住んでいたもの。そんなことはともかく、ここはポツダム会談が行なわれた場所として有名。
サンスーシ宮殿から近いのだが、こういうときに限って道が混んでいたりする。
ギュルルルピーッ……
バスが着いて、この世界遺産で最初に私が駆け込んだのがトイレであった。
0.30ユーロ。
でも、あいててよかった……
灰褐色の粗悪でゴワゴワしたトイレットペーパーも、こうなると頼もしい相棒に思えてくる。これでまた、私の繊細なおケツちゃんは擦り傷だらけになるんだろうけど……
そのあとの私?
言うまでもなく、この建物のもつ歴史の重さを十分に認識し、余裕をもって見学した次第。
ほぅら、ご覧!なんて美しい庭ですこと!地獄から天国へ。切迫から余裕へ!30セントの大いなる価値! さて、「音楽の捧げ物」のCDについて。
前回はペーター・ルーカス・グラーフのフルート他によるクラーヴェス盤を紹介したが、これは1968年録音でマスターテープ自体にもヘタリが来ていた。
そこで今回は有田正広のフラウト・トラヴェルソ他による、DENON(アリアーレ)盤を(ところでオーディオにおけるDENONはデンオンからデノンにブランド呼称が変わったが、CDもデノンと呼ばなくてはならないのだろうか?)。1993年録音。演奏はオール日本人のメンバーによる。
このCDでは、「6声のリチェルカーレ」で、一般的なのチェンバロ独奏による演奏の他に合奏による演奏も収められている。
すっきりして、あたりの光景がすべて輝くように見えるようになった私は、あちこち寄り道しながらホテルへと向かうのだが、その続きはまた明日!
新館入口(2014.6.22~)
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