“悲しさ”と”切なさ”と“苦しさ”が三角関係に陥って、その相談を受けた“絶望”が嘆いているような曲である[E:typhoon]。簡単に言えば「どーせボクのことなんて誰もわかっちゃくれないんだ」というイメージである。
マーラー(Gustav Mahler 1860-1911)が学生時代、1876年頃に書いたとされる「ピアノ四重奏曲の断片(Fragment eines Klavierquartettsatz)」イ短調の第1楽章のことである。
ヘンテコな曲名だが、なんのことはない、第1楽章とスケルツォの草稿しか残っていないためにこのように呼ばれている。
井上和男編著の「クラシック音楽作品名辞典」(三省堂)によれば、この曲は、《何かのコンクールのためにロシアに送った曲の断片である、と作曲者は述べている。初期の習作》であり、作曲年は1876年頃から78年とされている。 一方、長木誠司(長期政治みたいだ)の「マーラー 全作品解説事典」(立風書房。絶版)によると、マーラーも気に入っていたピアノ四重奏曲があったが、それは《ロシアの音楽コンクールに応募するために送ってから、行方不明になったとマーラー自身は語っていた。現在、これ以上その曲についての情報は残っていない》作品で、つまりは「ピアノ四重奏曲の断片イ短調」がロシアで紛失したものと同じ作品とはみなしていない。
さらに、《この断片のタイトル・ページには「ピアノ四重奏曲/第1楽章/グスタフ・マーラー/1876」と書かれているが、「第1楽章」と「1876」の箇所は、マーラー以外の手になる記述の可能性もある》、としている。
スケルツォの草稿は30小節ほど残っているが、この断片に基づいてシュニトケ(Alfred Garrievich Schinittke 1934-98)が「ピアノ四重奏曲」(1988)を書いている。シュニトケはさらに、「合奏協奏曲第4番(Concerto grosso No.4)」(1988。この曲は彼の交響曲第5番でもある)の第2楽章にも、このスケルツォの断片用いている(「クラシック音楽作品名辞典」では、第3楽章に用いていると記されているが、それは勘違いか、誤植か、何かの暗号だろう)。
長木によれば、スケルツォの断片はイ短調の第1楽章に続くと考えるのが自然なものの、スケルツォはト短調で書かれているために、調性の関係上まったく別の作品のスケルツォであった可能性も指摘している。
紛らわしい話をついでにもっとすれば、村井翔の「マーラー」では、この「ピアノ四重奏曲」が1876年の9月12日に初演されたと書かれている。
もし、本当にこれが1876年に書かれたのならば(たぶん間違いないのだが)、この作曲者は若いころからずいぶんと悩める人間だったと思わずにはいられない。そりゃ、暗い高校生って今でも各地にいるけど……
メロディは美しい。
ここには大オーケストラを響き渡らせるのとはまた別のマーラーの表情があり、大きな編成のオケでも室内楽的に響かせるマーラーのワザの原点が垣間見える感じである。
私は大学浪人生のときにこの曲を知ったが、マーラーが自分と同世代の時期に書いた曲ということで、「おお、友よ、ともに悩んでおくれ!」という気になり、大いに励まされたものだ。←嘘だピョン!
心の底からわき上がってくる苦悩のような低音による開始。それに続く、内に秘めたまま吐き出されることのないため息のようなヴァイオリンの旋律。続く何かにせかされるような旋律。どれもしみる。
美しくて切なくて慰撫的なのにあまり有名にならないのは、マーラーの曲としてはスパイス―例えば彼の音楽に必ず顔を出す“俗っぽさ”―がちょっと足りないせいかもしれない。
CDはクレメラータ・ムジカのものを。
あぁ、あの陶酔して口元がだらしなくなったクレーメルの顔が目に浮かぶ……。1994年録音。ほかに、ウェーベルンやベルク、シェーンベルクの作品が収められている。
また、シュニトケのピアノ四重奏曲で私が持っているCDはBISレーベルのもの(1991年録音)。演奏は、Olsson(vn),Kierkegaard(va),Nilsson(vc),Pontinen(p)。ほかに、ピアノ五重奏曲(「イン・メモリアム」の元である作品)などが収録されている。
新館入口(2014.6.22~)
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