自慢じゃないが、私は2年も浪人生活をおくった。
短大なら入学から卒業まで経験できる年数である。
その2年間、拙者はどういう日々を過ごしていたのか?
1日中勉強。
当然すぎることである。
だって私は浪人生。
だが、人間というものは往々にして「当然」=「理想」としてしまう。案外簡単に。
さらに私は「理想」より「現実」に忠実だった。ハチ公の如く。
朝起きて、勉強にとりかかる。
そんなときに限っていろいろなことに気づく(集中力がないとも言える)。
たまには本棚を整理しようとか、シャープペンシルの替え芯を補充しに買物に行っておいたほうがよいとか[E:run]、庭の鉢花に水をあげよう、という仕事を思いついてしまう。
結局、午前中は2時間ほどしか勉強できない。
2時間というと少ないように聞こえるが、120分と言い換えればちょっぴり長く感じる。
ろくでもない毎日変わり映えのしない昼食を、餌を食らうように摂る。大学に入る保証のない無職無収入の人間に、昼ご飯を作ってくれるような優しいばあやはいなかったからだ。
ささっと食べる。時間がもったいないからだ(かつ、時間がかかるような食事内容ではない)。Time is Bell と優等生だった高山君も言っていたではないか。
早く済ませたあとは、ゆっくりと茶でもすすりながら連続テレビ小説の再放送を観なければならない。別に観たい内容ではないが、すぐに机に向かいたくないのだ。
午後、ラジオのNHK第1放送の「午後のロータリー」を聞きながら、勉強。
ラジオを聞きながら車を運転する人が数多くいるのだ。ラジオを聞きながら受験勉強をする浪人生が一人や二人いたっていいじゃないか。
この番組の「相談コーナー」は私のお気に入りであった。
毎日テーマを変え、人生、病気や園芸といった相談を電話で受け、専門家が回答するのであるが、なかなか馬鹿ばかしくて面白いのである(相談している方は真剣である)。
毎日聞いているとわかってくることもある。
それは「杉並区のカタオカ」というオヤジが常連だったいうことだ。
よっぽど暇なのか、悩みが多いのか、ラジオ局の回し者かのいずれかに違いない。いろんなジャンルでとぼけた相談をしていた。人生相談、健康相談、園芸相談、さらには育児相談までも。
これを聞いていると、とても3次連立方程式を解いたり、アボガドロ定数を用いた水酸化化合物の規定量の計算をするどころではなかった。
私が考察するに、カタオカ氏はしょっちゅう相談の電話をかけられるくらい暇人であり(もしくは浪人生であり)、健康的にはたまに食欲が落ち、ツツジを植えており、他人の子供のしつけのことを気にしている人物だった。
4時からは音楽の鑑賞時間である。規則正しい生活は私のような境遇の人間には必要なことだ。
初心を貫き、毎日約2時間半、音楽と真剣に向き合うのは大変であった。午前中の勉強時間よりも長く耐えなければならないのだ。
平日の夕食後は、NHK-FMを聴きながら勉強である。そして、夜食を食べ、食べたら眠くなり、本能のおもむくまま寝る。
このような充実した日々をおくっていたにもかかわらず、2年間も浪人生活を送らなければならなかったのは、ひとえに私の信仰心の欠如による。あるいは亡くなった祖父母の力不足による。
そんな浪人中に、遅ればせながら知った名曲がある。プロコフィエフ(Sergei Sergeievich Prokofiev 1891-1953)の交響曲第5番変ロ長調Op.100(1944)だ。
それこそ、夜8時過ぎからのNHK-FMで放送されたのをエア・チェックしたのだった。演奏はカラヤン指揮ベルリン・フィル。ライヴ録音で、正直、このカラヤンはいいと思った。
この曲の終楽章は、同じメロディーが何度も繰り返され、それが実に親しみやすい。それもあって一聴で恋に落ちた。
交響曲第5番は、政治に無関心だったプロコフィエフには珍しく、戦争が動機となって書かれた。
1941年にドイツがソ連に攻め入った現実を受け、プロコフィエフは祖国愛に目覚めたという。そして祖国のために何か貢献したいと考え、この交響曲を作曲したのだった。
また、この曲の作品番号が100という記念碑的なものになることからも、プロコフィエフは意欲的に取り組んだようだ(第1交響曲を除き、第2~4番の交響曲も成功作とは言えなかったたので、ここいらで一発当てたかったのだろう)。
実際、交響曲第5番は多くの人によって「プロコフィエフの生涯の中で、最も良い作品に属す」と言われ、また、現代音楽のなかでも傑作とされている。
プロコフィエフ独特の突進する最新型蒸気機関車のような推進力を備えつつも、親しみやすい素晴らしい交響曲だ。間違いなくこれは傑作。
第1楽章が始まると、すでにこれからどんな素敵な音楽が続くのだろうと思わせる。
ユーモラスな第2楽章、澄んだ夜空を思わせる第3楽章、徐々に盛り上がり大爆発するロンド形式の第4楽章。全編にわたって顔をしかめたくなるような要素がない。
CDはカラヤン氏に敬意を表し、ベルリン・フィルを振った1969年の録音のものを(カップリングはストラヴィンスキーの「春の祭典」)。
この曲って、案外、「おおっ、すっばらしい、すんごい!」という演奏のCDになかなか出会えないのが不思議……
かつて札響の定期演奏会でこの曲をやったとき、終演後、ロビーで「たいそう派手な曲だったねぇ~」と老夫婦が、やれやれ風に会話していたのが忘れられない。ちょいとついて行くのがしんどかったか?
そういえば、その日の演奏、最後の音の一つ手前でティンパニが一打余計に叩いてしまってたなぁ。ふだんはそんなことのない名手だったのに指揮者(岩城宏之)に不満でもあったか……
新館入口(2014.6.22~)
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