日曜日の朝8:00に「着信1件あり」という、ひねってるんだかひねってないんだか判断できないタイトルのメールが届いた。
 最近しばらくは来ていなかったアダルト系メールである。
 きっと8:00に一斉配信のセットをしてたんだろうな。

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 初恋の人からの
 ・゜☆お手紙☆゜・
 ☆゜・:,。゜・:,。☆

 あの時の事を覚えていますか?
 貴方が忘れてしまっている思い出を少しばかり思い出してみませんか?
 あの時の笑顔、声、恥ずかしくてうまく伝えられなかった気持ち。
 今なら少し素直になれるのではないでしょうか?

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 って内容。
 こんなふうに、遠い昔の私の初恋のことまで心配してくれてありがとう。そんな感謝の気持ちを持ちつつ、私はサンデー・モーニングを観た次第。

 私にとって、いったいいつが初恋になるのかわからないが、ふられて死んでやるぅ~と思ったほどの恋は、高校3年生のときであった。超一方方向ベクトル不可逆的恋愛である。でも、この場だから言っちゃうが、相手だって時折それらしき態度を見せて、純情な私の気持ちを煽ったのだ。

 で、告白。
 ちゃんと素直になりまして、それで告白。
 即日判決。敗訴。

 その日の夜、私はマーラーの交響曲第6番の第3楽章を繰り返し繰り返し聴いた。
 なんかわからないけど、すっごく自分的には青春っぽいことをしたものだと思う。

 当時鉄道ファンだった私は、特急列車にひいてもらおうと、翌朝岩見沢の方まで行ったが、その日からダイヤ改正。予定していた死のポイントにたどり着く前に、目的の極楽列車は、とぼとぼと線路わきの道路を歩く私を追い抜いて行った。ダイヤ改正によって、運行時間が早まっていたのだ。

 はいはい、おとなしく帰ります。家に。
 それから数日は、食事も喉に通らず、廃人化。
 受験生として真剣みが足りないと、事情もしらないくせに廃人と化した私にケチをつけた古典の教諭め!おいらは理系。古典なんか関係ないわい。

 そんな日々を送りつつ3カ月ほど経った12月。
 以前にも書いたが、NHK-TVでベルリオーズの「幻想交響曲」が放送された。
 指揮はフリューベック・デ・ブルゴス。
 この演奏は心に浸みわたった。
 音楽を聴いて、ベルリオーズが描いた、好きな女性に憧れる気持ち、嫉妬心、そして寂しさや復讐心が、まるで動画を観るかのように理解できた。というのも、描かれている内容の字幕テロップが画面に出ていたからだ。

 でも、私は幻想交響曲で救われた。
 立ち直った。45%ほど。
 それからというもの、私は様々な演奏を聴いてきた。おそらく、私の鑑賞歴のなかで、1つの楽曲でいちばん多種の演奏を聴いてきたのが幻想交響曲である。

 そして、その続編がある。
 幻想交響曲で自分をふった女性(シェイクスピア劇の女優、ハリエット・スミスソン)を魔女に仕立て上げたが(最初は売春婦にしようとしたらしい)、ベルリオーズはそれだけで満足しなかったのだ。このしつこさが素敵。

78f65d57.jpg  続編は「抒情的独白劇『レリオ』、または生への回帰」Op.14bisである。
 原題は、Lelio,ou Le retour a la vie。
 この曲は幻想交響曲の続編として、幻想交響曲の改訂版とともに1832年に初演された(作曲は1831-32)。1人の演技者(レリオ役)、テノール、バスの各独唱者、合唱、ピアノ、オーケストラという編成。合唱団は360人が要求される。詞はゲーテの作品をもとに、ベルリオーズとA.デュポワによって作られた。

 作曲者によれば、「レリオ」は幻想交響曲で描かれた芸術家がつらい体験を乗り越えて生へ復帰するものを描いたもので、幻想交響曲のあとに演奏されるよう指示されている。
 ただし、編成上の問題などから、演奏機会には恵まれていない。
 全体を構成するどの曲も、なかなか魅力的なのに残念である。

 レリオがあーだこーだと長いセリフを語るが、その合間合間に曲が演奏される。曲は全部で以下の6曲。
 1. 漁師 - ゲーテのバラード
 2. 亡霊の合唱
 3. 山賊の歌
 4. よろこびの歌
 5. エオリアン・ハープの思い出
 6. シェイクスピアの「テンペスト」による幻想曲

32e80b85.jpg  第1曲のなかに、幻想交響曲に出てきた固定楽想、すなわち「恋人の主題」が現れるが、そのあとは曲の最後の部分で再び「恋人の主題」が奏される。
 そしてレリオはこうつぶやく。「アンコール、アンコール、永遠に!」(掲載譜。このスコアはKALMUS社のもの)

 これは感動的というか、かなりストーカーっぽいっていうか、狂気というか、大げさというか……

 しかし、この曲の初演後、ついにベルリオーズはスミスソンと結婚することになる。
 音楽によるプロポーズ(?)大作戦は、大成功に終わったのだ。

 が、結婚生活は順調にいかなかった。
347dd4d4.jpg  数年で破綻したのである。
 病的なほどに憧れた女性への理想と現実。おそらくは、ベルリオーズが彼女をあまりにも美化してとらえていたのだろう。家計は苦しく、言葉の壁もあり、またベルリオーズはこともあろうにマリー・レチオという愛人を作った。

 CDではブーレーズ指揮ロンドン響、同合唱団による演奏のものをお薦めしたいのだが、現在は入手困難なよう(1967年録音。ソニー・クラシカル)。
 そこで、入手しやすいCDとして、インバル/フランクフルト放送響のDENON盤をあげておく。幻想交響曲との2枚組だが、この幻想交響曲の演奏、あまり私の好みではない。鐘の音も気に入らない。森の鍛冶屋みたいだ。

 私を死まで追いやろうとしたほどの、あの女の子は今どんな風貌になっているのだろう?
 いや、全然会ってみたいとは思わないけど……