おととい雨が降ったかと思うと、昨日は吹雪模様。
 前日に降った雨は、新たな雪の下で、望んでもいないのに「かっちかっちやで」のスケートリンク状態。ちょいと気を抜くとスッテンコロリンしそうで危なっかしいったらありゃしない。
 そういう道を歩くとき、自分でも理解できないような箇所に力が入っているのだろう。内腿(うちもも)の深部に“だる痛さ”が蔓延している。
 
 そういう吹雪模様で、しかもすっごく冷え込みが厳しいにも関わらず、昨日の夜はナシニーニ(初登場!♂)と食事。
 ナシニーニは「たまにはイタ飯を食べましょう」と言ったが、目に入った店に安直に入ろうとしたが混んでいて即断念。いや、席は空いていたようだが、店に足を踏み入れても誰一人出迎えに来てくれない。こんなんじゃ席についたって、ずっと招かざる客扱いされそうだ。だったらイカ飯の弁当を買って立ち食いした方がまだましだ。腹が立たない分。

 「じゃあ焼き鳥にしましょうか?」と私が提案すると、ナシニーニは「ええ、いいですよ」と、まったくいいですよじゃないような返事をした。私だって別に焼き鳥を食べたいわけじゃないのだ。ただ、いつまでも無言で向かい合っているわけにはいかないので、そう言ったまでだ。
 ということで結局は洋食屋に行って、ソーセージとハンバーグとビールという子供が喜びそうな(ビールはともかく)食事となった。ナシニーニだけは生ガキを食べていたが、なんとなくエッチっぽかった。カキの姿が……

 そのあと別な店に行った。
 スナックとバーを掛け合わせてルートで二乗根を求めたような、何とも形容しがたい形態の店だ。しかし、妖しくなくて健全な雰囲気で落ち着ける。落ち着けるのは空いているからで、店としては困ったもんなんだろうけど私たち客にしてみたらとても居心地が良い。この店こそナタオーシャとカトナーリャがいる店で、店長の名はカチャカポコナという(一応日本人)。

 予想に反し長居してしまった。
 ナシニーニがどうしてもカラオケを歌いたいと、だだをこねたからだ。
 カトナーリャは、私には理解できない前衛音楽のような歌を歌っていた。あの歌よりもジョン・ケージの作品のほうが、私には馴染める。
 ナタオーシャはちあきなおみの「喝采」を歌っていた。曲の性格上、私はナタオーシャに喝采した。
 最後の最後になぜかキャンディーズの「微笑がえし」の話となり、この歌の歌詞にはそれまでのキャンディーズの歌のタイトルが回顧されるように折り込まれている、ということを再確認するために、こともあろうに私とナシニーニとでデュエットしてしまった。なんだか、それまでの楽しい時間を自らぶち壊してしまったような気持ちになってしまった。
 ビルを出たときには、このあいだほどじゃないにしても、けっこう雪が積もっていた。
 すさんだ気持ちに雪。
 やれやれ……

 でも前のときのように、帰宅してから夜中に雪かきをするという気力も知力も筋力も視力も脚力もなく、そのまま寝てしまった。考えてみれば酔っ払った状態で夜中に雪かきをするというのはかなり危険な行為だ。ファイターズの小林繁コーチだって心不全で死んでしまったのだ。スポーツに縁のない、細いツララのようにか弱い私ならどうなるのか、想像するだけで恐ろしい。

 朝……
 寝不足……
 眼球の裏側でティンパニ奏者がマーラーの交響曲第7番終楽章の冒頭を叩いているかのような響きがある。ドンドコドンドン、ドンドコドンドン……

 やれやれ……

 当然のことながら、気持ちだって明るくない。
 あまり食欲もなく、ご飯は茶碗で2杯しか食べられなかった。
 おかずのベーコンも3枚しか食べられなかった。

 ふと、私の鼓膜の裏側でホルンの柔らかなメロディーが流れる。
 幻聴ではない。
 頭歌だ(鼻歌という言葉があるのだから、頭の中でメロディーをなぞることを頭歌―この場合ズカという読みにするとへんてこで良いような気がする―と呼ぶことにしても、誰も怒らないと思う)。
 
 その曲は、「ライト・オブ・マイ・ソウル(Light of my soul)」
 何年か前に学生の吹奏楽コンクールで耳にし、気に入ったのでCDを買った。
 このときまで気づかなかったのだが、CDショップってけっこう吹奏楽のCDが置かれている。中途半端なショッピングセンターの中に入っている、花屋ぐらいの広さしかないCD店でさえ、吹奏楽のCDが必ず何枚か置かれている。マーラーの交響曲第7番が棚になくても(棚に置く気すらなくても)、「ブラバン甲子園」みたいなCDは置かれているのである。それだけニーズがあるのだろう。ブラバン人口は、予想よりもはるかに多いようだ。

 「ライト・オブ・マイ・ソウル」の作曲者はD.ギリングハム(David Gillingham 1947- アメリカ)。Wikipediaによるとギリングハムは、現代吹奏楽作曲家の神様的存在のリード(Herbert Owen Reed 1910- アメリカ)などに作曲を師事したという。

dce16c47.jpg  「ライト・オブ・マイ・ソウル」のライトはLightなので、“我が魂の権利”、じゃなく“我が魂の光”っていうような訳になるんだろう。自信はまったくないけど。
 朝食を食べたから私の気持ちが少し明るくなったのかもしれない。実にピュアな人間だ。私は。

 賛美歌の主題を変奏的に扱っているそうで、そのためか非常に美しく親しみやすい。
 ただ、中間部で打楽器群が爆発する。
 この部分、私にはない方が良いように思うのだが、私にはそんなことに注文をつける“権利(right)”はないし、吹奏楽部のパーカッションの人たちも活躍させるように書かれているのかもしれない。 
 でも今朝も、頭歌がその箇所にさしかかったら、私の眼球の裏側ではドッカン、ズッギュン、バッカン、チャカポコチャッって感じで、痛たたたたぁ~となってしまった。

 CDは「CAFUAセレクション2007 吹奏楽自由曲選『メトロプレックス』」というタイトル。演奏は航空自衛隊西部航空音楽隊。CDの性格上(毎年新しいのが出ている)古くなったものはそのまま終売になって再発売されることはないと思う。