「ワタシはァ、チューダー朝のォ、偉大なる作曲家のォ、末裔なるぞよ」と、聞く人が聞いたら「うさんくせえヤツだ。だいたいこの顔、信用できるのか」、と誤解を招きかねないようなことを言っている作曲家(誤解じゃないかもしれないけど)。それがジョン・タヴナー(John Tavener 1944- イギリス)である。

 タヴナー(タヴァナー)は、前衛音楽の崩壊後に活躍している神秘主義の作曲家。
 自分は、16世紀イギリスの代表的教会音楽家J.タヴァナー(John Taverner 1495以前-1545)の子孫であると称している。
 それがホントかウソかは知らないが、“自称”というのが何とも怪しい。
 “癒しの音楽”を書いているが、宗教的には正教徒からイスラム教へ改宗したとも言われており、このあたりも本当に癒されるのだろうかと、信じきれない不安がある。
 1968年作曲のカンタータ「鯨」でレコード・デビューしたとき、そのレーベルがビートルズのレコードでおなじみ(というには時が経ちすぎているけど)のアップル・レコードからだったというのも、クラシック音楽界としては異端。
 なんとなくヴェールに包まれた人物だ。どうせだったら顔もヴェールで包んだままにしておけばよかったのに……
 
 そのタヴナーの「聖母マリアの御加護のヴェール(奇蹟のヴェール)(The protecting veil)」(1987)。

56b2ec10.jpg  「奇蹟のヴェール」は、チェリストのスティーヴン・イッサーリスのプロミス・デビューのために書かれた7つの楽章からなるチェロとオーケストラのための作品。

 むかぁし、昔、10世紀のこと。
 東ローマ帝国のキリスト教の大都市コンスタンティノポリス(コンスタンティノーブル。現イスタンブル)にイスラム教徒が侵入しようとしたとき、キリスト教徒を守ったとされるのが“奇蹟のヴェール”。どんな光景か想像できないが、とにかくそれをテーマにしている曲だ。
 この曲、イギリスでは大ヒットしたらしい(そういえばグレツキの交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」も、ロイド=ウェッバーのレクイエムも、イギリスで大ヒットしたという。こういうのが好きなのかな、えげれすの人は)

 各楽章のタイトルは、
 1. セクションⅠ
 2. 受胎告知
 3. 顕現
 4. 架刑と聖母の悲しみ
 5. キリストは甦った
 6. 聖母の死
 7. 奇蹟のヴェール
である(下のCDの表記による)。

 冒頭からどこまでも美しい。
 どこまでも美しいという言葉はヘンだが、どこまでも美しいのだ。
 わかりやすく変換するなら、とても美しい、ってことだ。

 癒されたいときにはもってこい。
 私はいつも癒されたいと思っているが(ナマケからではなく、傷つきやすいからだ)、こればかり聴いているとぬるま湯から脱出できなくなりそう。だから私は、マーラーやらショスタコーヴィチやら、時にはジョン・ケージなんかを聴いて刺激を受けることを辞さないようにしている。

 それはけっこうな冗談としても、ホント、きれいな曲。
 ちょっぴりカーニスの音楽を思い出しちゃった。
 そして、4日前、私はカニ酢を食べちゃった(これホントの話)。

 CDはナクソス盤を。
 マリア・クリーゲルのチェロ、湯浅卓雄指揮アルスター管弦楽団。1998年の録音で、規格番号は8.554388。カップリングはソプラノ、テープとオーケストラのための「イン・アリウム」。