今日は福岡で朝を迎えた。
 知り合いの福岡さんちじゃなくて、九州の福岡。
 なぜかというと、出張で昨日福岡にやって来たからだ。

 新千歳から羽田まで飛び、そこで福岡便に乗り継ぎ。
 乗り継ぎには1時間の余裕があった。
 いったん搭乗口側に入ってしまうと(乗り継ぎならそのままの状態になるし)、まともに食事をする場がないが、これなら羽田でいったん外に出て、空港ビルのレストラン街で食事をすることも夢ではない。
 小さな夢……
 高いだけで、別段すごく美味しいわけではないし……
 でも、第2ターミナルの到着口にある、スタンド・カレーの店は、値段は普通で味もそこそこ。
 そうだ、あそこのポークカレーでもいいや。

 ところが千歳→羽田便で機材に不具合が発見され修理に若干の時間を要するとのこと。千歳からの出発が遅れ、パイロットの懸命な努力によって遅れは多少圧縮されたが、やはり羽田到着も遅れてしまった。

 やれやれ。

 こりゃあ羽田に着いたら搭乗待合室で空弁を食べるしかないなと、作戦変更を余儀なくされた。でも、そこで私を襲ったのは新たな幸福の予感。降臨よ!
 そうだ、崎陽軒のシウマイ弁当を食べよう!
 るんるん。

 ところがぎっちょん。
 シウマイ弁当は売り切れ。同じく崎陽軒のチャーハン弁当も売り切れ。
 このときの私の落胆ぶりを果たして皆さんは想像できようか?

 でも、崎陽軒の「春の弁当」だかっていう、季節限定弁当が1つだけ売れ残っていて、いや、私の手にとられるために残っていて、それにはシウマイが2個入っていることも、あのおいしい焼き魚(の断片)も入っているのも、サンプルで確認でき、迷わずっていうのは誇張ながらもゲット。
 おいしくいただきました。私には上品過ぎて、ご飯も足りなかったけど……
 650円という価格設定は、空弁としては感動的なものでもあった。

 さて、福岡便に乗り込もうとしたら携帯にメールが。
 スナック“イ短調”のママだった。
 「演奏会はいかがでした?」とある。

 ったく!
 金曜日に「土曜日の演奏会には私も聴きに行きたいと思います。当日券は何時から売られるのでしょうか?」などと、いかにも行くから教えてくれとばかり、人にメールをよこしておきながら、この文面からすると口先ばかりでコンサート(札響定期のB日程)に行かなかったようだ。そんなこったろうとは思ったが、じゃあ、あのメールはなんなんだ?
 彼女が行こうと行くまいと私には関係のないことだが、ひやかしやからかいでメールを寄こさないでいただきたい!私は札響関係者じゃないんだし。人の趣味・興味に、いたずらに入り込んでくる客引き(客つなぎ)って、私には完璧逆効果。タコのいぼのリバーシブル。解釈不能はともかく、私は検温、違う違う、嫌悪!

 と、妙な怒りに襲われたまま搭乗。
 なぜか私の席の床下からは「ワンワン、ワワン」と、犬の鳴き声が続いている。
 かわいそうに、貨物室に乗せられたワンちゃんがいるらしい。
 私がこの犬だったら失禁しちゃうな……

 それはともかく、あのメールのせいでというか、おかげでではないし、きっかけで、機内で金曜と土曜のことを省みた。んっ?なんで反省しなきゃならないのだ?

 金曜日。札響第526回定期演奏会A日程。
 この日はアイゼンシュタイン(敬称略)、アルフレッド、そしてナタオーシャとともに演奏会に臨んだ。
 17:45にKitaraの近くのホテルのロビーに集合。このようにあいまいに書いても、そのホテルが帯広パークサイドホテルじゃないってことは、読者の皆さんにも明らかだろう。

 そこの1階のレストランで軽く食事をし、Kitaraへ。
 ワインを1本とるが、アイゼンシュタインの飲み込みが速い。いや、何かを理解するのが速いという意味ではなく、文字通りワインを飲むのが速い。
 あのさぁ、これから宴会を始めるんじゃないんだから、気をつけてね。

 演奏会の感想はすでに書いたので、終演後の私の行動。

 ナタオーシャと別れ、私とアイゼンシュタインとアルフレッドは今宵の感想を語り合おうと、実際は私とアルフレッドの2人だけで合意し、静かな和食店へ。
 だって、せっかくいい音楽を聴いたのだ。なぜ、このあと露出狂的なおやじがカラオケをガンガン歌ってる店に行かねばならないのか?耳がかわいそうだ。

 ところが、その和食店、ほどなくラスト・オーダー。
 ラスト・オーダー宣言後、ほどなくして蛍の光。
 はいはい、帰ります。

 ところが、これでお開きとはならなかった。
 この時点でアイゼンシュタインは、つい先ほどまでクラシック音楽を生で聴いた、という記憶は吹っ飛んでいた。記憶のワープ。“メモリが不足か、外部記憶デバイスを認識できません”状態だ。
 飲み足りないのに記憶を失える特異体質のようだ。

 しかたない。
 苦渋の選択だがビバ・トレードに寄ろう。
 どうかそこで、カラオケがガンガン歌われてないように。
 そう願って店に向かった(私はこのまま帰るべきだと主張したのだが、アイゼンシュタインが救急車5台に囲まれて、もはや遠吠えが通用しないと思い知らされ困惑している犬のような表情を呈したので、そのような結論になったのだ)。

 ビバ・トレードはそこそこ混んでいたし、カチャカポコナは太陽の紅炎嵐のように元気だったが、幸いカラオケは鳴り響いていなかった。
 私とアルフレッドは今宵の演奏会について語り合ったが、私たちはアイゼンシュタインを会話に入れなかった。というのも、この店に来る前、ここのビルの1階で氏はまた精神的粗相をしたのだ。
 ペナルティ・ボックス入り。

 このビルの1階には鯛焼き屋がある。
 その名を“たい一”という。呼び方は“たいかず”である。なぜ私が呼び名を知ってるかというと、看板の“一”の字の上にルビがふられているからである。この細かな配慮に、店主の仕事に対する丁寧な姿勢が垣間見える(想像に過ぎないが)。
 氏はその看板を見て、「タイ~ッ、て変な名前ですよね」と言ったのだ。
 変なのはあなただ。
 いいよ、タイに旅行しに行って。片道切符で……

 ということで、氏を他人扱いした。

 が、変なのは他にもいた。
 カトナーリャだ。

 私がアルフレッドに、「Kitaraはいいでしょう?」と語ってるのを小耳に挟んで彼女は言った。くったくのない笑顔で。
 「チャージして来たんですか?」

 それはKitacaだろうに……
 まっ、rとcしか違わないけど……はいはい、チャージしましたっ!

 話は混線してくる。

 先ほどまでKitaraの聴衆の1人だったナタオーシャは、わけがよくわからないが、「ウチのお母さんって、スットコドッコイの性格なの」と、唐突に言い始める。
 何なんだよ、スットコドッコイって?
 「アイゼンシュタインみたいな性格ってこと?」
 「いいえ、違うの。もうちょっとアイゼンさんよりは切れ味があるけど、でもスットコドッコイなの」
 知らん……

 この賑わいの中、私の心は徐々にこの場を離脱し、別なことを考えていた。

916827a8.jpg  来年の2月の札響定期ではショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏される。 それにチェロ協奏曲第2番も!
 明日の朝、ウォークマンにザンデルリンクがベルリン響を振った第5交響曲をCDから取り込んで通勤時に聴こう。
 アイゼンシュタインが「ここのビルの1階にタイ~ってあるよね」「なぁにそれ?ばっかみたい」なんていうスットコドッコイな喧騒をよそに、私は明日に向けて決意していたのだ。

 ザンデルリンク/ベルリン響のショスタコーヴィチの第5番(ドイツ・シャルプラッテン)の演奏は、それなりに定評があり、実際名演だと思うが、ショスタコらしいようでショスタコらしくない音楽が展開される。
 そこには“伝統的なドイツのシンフォニー”のような響きがある。
 「へぇ、ショスタコってこんなに渋く響きもするんだ」って意外に思ってしまうのだ。
 1982年録音。
 現在は販売元もジャケット・デザインも変わっている。詳しくは ↓ から。

 さて、翌土曜日のお話は、次回のお楽しみ!

 昨日の夜は、博多駅に隣接する場所にある店に行った。
 ホテルのロビーに置いてあったグルメガイドに載っていた“益正”って店。
 一口ギョーザや鶏の水炊きなどを食べたけど、水炊きにはがっかり……
 水炊きってこんな料理だったっけ?
 カキの燻製ガーリックバター炒めは美味しかった。
 とにかくガヤガヤしていて落ち着けなかった。
 いえいえ、私の選択ミス。
 よそから来た人間が九州の味を堪能する、というコンセプトの店ではないようなのだ。
 安直に店を決めた私が悪いのよォ~。