2月26日金曜日の夜、私はこうして豊かで幸福感あふれる時間と、なんとなく腑に落ちないがそれなりに幸福っぽい時間との豪華2本立てを、4時間弱の間に経験した。

 さて、翌日。
 ちょうど今日から1週間前の土曜日。
 札響第526回定期演奏会のB日程。
 この日は妻と聴きに出かけた。
 街中で昼食をとり、買い物(彼女のである)をしてからKitaraへ向かうことにした。

 「たまにはマクドナルドに行って、店内の空気に満ち溢れる若者たちの生気を吸い取りながら、最近人気のダブル・マック・ツィストでも食べてみようか?」
 このように私は提案した。

 「そんなシュワン・ホワイトのワザをマックのお姉さんに言う勇気、あなたにはないでしょ?」

 ちっ、知ってたのか、ハーフパイプのワザだってこと……
 私はパイプカットされたオス犬のようにうなだれてしまった。

 軌道を大幅修正し、讃岐うどんの店に行った。
 妻は北海道は道南方面の出身だが、その地はその昔、四国からの入植者によって拓かれたそうで、その名残でいまでも四国との交流が深いらしい。で、妻も幼い頃からよくウドンを食べたそうだ。
 なるほどと言えるような、関係ないじゃんと文句をつけたくなるような話だが、とにかくウドンには幼い頃から愛着があるらしい。
 
 そこのウドン店に、私は何度か行ったことがあったが、いずれも夜、酒を飲みに、であった。
 だからまともにウドンを食べたことはなかった。
 妻は今回が初めてである。

 初めて“ふつうのウドンのメニュー”をちゃんと食べたが、うん、美味かった。
 かき揚げがのったウドンを頼んだが、ダシが効いたつゆが美味い。
 私はソバもウドンも醤油ベースの黒いつゆのもので育ったが(北海道はたいていそうだ)、ことウドンについては断然こっちのつゆの方が合うし、美味しいと思う。

 ちなみに生醤油をかけて食べるのは興味がわかない。
 熱々のウドンに卵をからませるのも、私は生卵が苦手だから、関心がない。

 私はかき揚げウドンとかやくご飯のセットを頼んだが、かやくご飯もとても美味しかった。
 ちょいと不思議だったのは、讃岐ウドンってもっとコシが強いものかと思ったが、そうでもなかったことだ。

 あっ、その店は“饂飩四国”。

 へぇ、“壁の穴”でやってる店なんだ。トラの穴みたいで、怖ぁ~い。←あほです。

 そのあと、妻の買い物に付き合う。
 いつものことながら、非効率に思われる。
 しかしコンサート前に血圧を上げるのは良くない。自分のために我慢する。

 ウドンを食したあとに、ショスタコーヴィチというのも不思議な感じだが、だからといってハンバーガーがショスタコーヴィチに合うかといえば全然合わないし、チンジャオロースーだって合わない。
 気分を高揚させるためにピロシキを食べるとか、ボルシチにするかっていうと、そこまで何でしなきゃならないんだって、自分の発想に腹が立つし。

 とにかく、Kitaraへ。

 コンサートの感想は先日書いたとおり

 ハーフ・パイプで思い出したが、「ホーン・パイプ(A hornpipe)」という曲がある。

 イギリスのチューダー朝初期の宗教音楽家、器楽音楽家で、1480年頃に生まれ1558年に亡くなったと推定されるアストン(Hugh Aston)の曲である。

 井上和男編著の「クラシック音楽作品名辞典」(三省堂)の改訂版には、アストンのヴァージナル曲としてこの作品が掲載されているが(掲載されているのはこれ1曲)、そこには《同時代の鍵盤楽器の技巧を知ることのできる貴重な作品》と書かれている。
 私は今から30年近く前に、この作品を聴き、また何度か聴き返した。しかも鍵盤による演奏ではなく、なぜかフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルによる演奏。NHK-FMでエア・チェックしたのだが、確かライヴだったと記憶している。
 いま私の手元にはこの曲はないし、どんな曲かすっかり忘れてしまった。

 えっ?
 
 それだけですが、何か?

 なお、「クラシック音楽作品名辞典 (第3版)」では、アストンの名前は消えている。落とされてしまったのだ。まあ、耳にできる機会もまずない曲なんだから、掲載してもしょうがないってことだろう。アストンは、落とされちゃったよ、あーストンッ!
 ……反省します。

 ストンついでに、イーストン
 イーストン(Michael Easton 1954-2004)について私は詳しいことを知らないが、イギリス生まれで楽譜出版社に勤務しているうちにオーストラリアに定住し、30歳前半で作曲家に転じたという。

692f8acc.jpg  その彼の「オーストラリアの主題による協奏曲(Concerto on Australian Themes)」(1996)。

 いやぁ、聴いていてもまったく聴き手は緊張しない。できない。
 深刻なものは一切なし。
 特に第3楽章なんて「おや、朝の体操の音楽が始まったかな?」っていう音楽(終わりは深呼吸って感じ)。目覚まし時計代わりにかけると、目覚めも爽やかだ。たぶん。
 この曲はピアノ協奏曲で、3つの楽章から成っている。

 CDはナクソスから出ていたが(1997年録音)、現在販売終了状態(レン・ヴォースターのピアノ、ブレット・ケリー指揮ヴィクトリア州立響という、私には未知のメンバーによる演奏)。
 このCDには、「パリのオーストラリア人」なんていう、「パリのアメリカ人」を明らかに意識した真面目なのか人をバカにしているのかわからないタイトルの曲も入っている(個人的には魅力的な曲だとは思わないけど)。
 聴きたい方は再発売を待つべし。