中学2年生の年の全校合唱コンクール。
課題曲は「モルダウの流れ」とかいうタイトルだった。
スメタナ(Bedrich Smetana 1824-84 チェコ)の「モルダウ」の原曲を乱切りにして炒めたあと粗熱をとり、レシピで必要な調味料がないので醤油でごまかして味付けしたように編曲し、決して現代的とは言えないおふくろの味的な歌詞をつけたものである。
ただ、私にとってはこの歌を歌わされたおかげで、スメタナという作曲家を知ることができた。 スメタナはチェコ国民楽派の祖で、何となく意外だが、若い頃はショパン弾きのピアニストとして知られたという。1856年にスウェーデンに行き指揮者として活躍、'61年に帰国し、チェコ国民音楽の創造に情熱を傾けた。
耳が聞こえなくなるという、音楽家としては非常に悲劇的な、でもそれゆえに伝記的には色を添えている作曲家にベートーヴェンがいるが、スメタナも聴力を失った。
《人生の終わりに近い1874年、スメタナはベートーヴェンと同じように聴力を失い、シューマンと同じように、精神が錯乱した。彼は1875年、友人に送った手紙の中で、聴力障害について勇敢だが悲壮に、次のように書いた。――「私の耳は外見は全く健康的だが、内部器官――内蔵中のあの見事な鍵盤――は損傷し、調子はずれとなっている。ハンマーが突きささったままで、どの調律師もこの損傷を修理することに成功していない」。彼は記憶力と言語能力を失い、収容された精神病院で1884年5月12日に死んだ》(H.C.ショーンバーグ「大作曲家の生涯」:共同通信社》
なお、ショーンバーグは同書のベートーヴェンの章で、次のように書いている。
《音楽家でない人たちは、ツンボの作曲家がどうして機能するか、ほとんど想像もできない。しかし高度の能力を持つ音楽家にとっては、ツンボに関係があるのは外部の音だけであって、体内の音とは無縁である。ベートーヴェンは絶対音感をもっていた。これは1つの音または音の組み合わせを聴いて直ちに正確に指定できる能力であり、半面、ピアノや音叉といった人工的な助けを借りないで、どんな音でも正確に歌える能力である。……というわけで、信じ難いほど豊かな音楽精神の持ち主であったベートーヴェンは、バッハやモーツァルトと同様、彼の精神内部の耳にある音だけに導かれて作曲することに、なんら困難も感じなかったであろう》
「ツンボ」って言葉、今はまずいですよね?
すいません、古い本なもんで……
これを読むと、聴力障害でも作曲ができるということは理解できる。
ただし、スメタナは頭までいっちゃったからなぁ……
「モルダウ(Die Moldau)」(1874)は、6曲の交響詩から成る連作交響詩「わが祖国(Ma vlast)」の第2曲で、モルダウというのはドイツ名。チェコ語ではヴルタヴァ(Vltava)という。
水源地からしだいに流れを集め、大きな流れとなっていくヴルタヴァ川に託して、祖国の自然をうたいあげた作品である(最近では「モルダウ」よりも「ヴルタヴァ」と呼ばれることの方が多くなってきているように感じる)。
なお、「わが祖国」を構成するの6つの交響詩は、「ヴィシェフラド(Vysehrad)」(1872-74)、「ヴルタヴァ」、「シャールカ(Sarka)」(1875)、「ボヘミアの森と草原から(Z Ceskych luhu a haju)」(1875)、「ターボル(Tabor)」(1878)、「ブラニーク(Blanik)」(1879)で、初めて全曲が一括演奏されたのは1882年のことだった。
6曲中で「ヴルタヴァ」、つまり「モルダウ」が最も有名なのは言うまでもないが、私は、チェコの風景描写をしながら祖国を賛美している第4曲「ボヘミアの森と草原から」がいちばん好きである。中間部に登場するメロディーのなんと魅力的なことか!
ここではノイマン指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団による演奏のCDを紹介しておく。
1975年録音。スプラフォン。
なお、エリシュカ/札響のCDも、相当良いらしい(我、未聴)。 さて、話題は「MUUSANの庭と芝生から」。
やっとこさ、わが家の庭、まあ別な言い方をすれば、そうね、マイ・ガーデンってことになるんだけど、クレマチスの“ベラ”が咲き始めた。
ベラと言えば、アロエの品種名としてや、妖怪人間関係者の間で、その名が有名だが、ここではクレマチスのベラである。
これを通販で買ったのは昨年の春。
ピクトンズバラエティという品種を注文し送られてきたのだが、そのあと「誤送でベラを送ってしまいました。返金いたしますが、ベラちゃんはそのままかわいがってあげて下さい」という連絡が来たのだった。
さすがサカタのタネ。やることがきちっとしてる。 こうやられちゃ、「ざけんなよ!ピクトンちゃんを送れよ!」とゴロつく奴はまずいないだろうし、むしろ「もらっちゃっていいのかしら」と、顧客満足度をupさせちゃうかもしれない。
ベラはまだ咲き始めたばかりで、まだ1輪だが、アーチに絡ませた全体に花がつくと、私はきっと嬉しくてベラベラと言い振り回るだろう。
おぉ、チャイヴも咲き始めた……
コメント一覧 (2)
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- June 13, 2010 21:26
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子供のころから「モルダウ」が好きでしたので、今回大変興味深く読ませて戴きました。聴力を失ったことは知っていましたが、精神に異常をきたしたことまでは知りませんでした(そのとき幻聴はあったのだろうかと、そんなことが気になったりする医療系)。そう言えばベートーベンも一時期精神的にやばかったんですものね。
スメタナって、クラシック界のOne-hit-Wonder(一発屋)という印象があります(笑)。あ、今ではちゃんと「わが祖国」全部通して聴くようになりました、Slovak State philharmonic(お隣だけど、やっぱり違うんでしょうね…)の演奏。
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© 2007 「読後充実度 84ppm のお話」
© 2007 「読後充実度 84ppm のお話」
スメタナはおかしくなって、モーツァルトやベートーヴェンあての手紙まで書いたそうです。
遺体の解剖の結果は、第3および第4脳室の拡大、脳萎縮、前頭葉に脳軟膜と実質の強い癒着、聴神経の委縮と髄鞘の消失だったそうです。
梅毒による進行性麻痺説が唱えられたものの、スメタナの名誉のために「脳動脈硬化症および両側内耳出血を伴うメニエール氏病」説が支持され、梅毒説を支持した学者はボヘミア医師会から叱責処分を受けたそうです。
医療系のLimeGreenさん、なかなかの突っ込みでした!