03fe0c30.jpg  昨日、膵臓(膵管拡張)の検査のために、ついぞ超音波内視鏡を飲んだ。

 前の診察の時に、お世辞にも感じが良いとは言えない医者が言うには、「多くの人がやってるわけですから、別に辛くはないでしょっ」とのことだったが、その直後に予約をとる段階で、看護師が「そこそこ太いです。いえいえ、胃カメラよりも太いです。おまけに胃カメラより時間もかかります。でも、眠くなる薬を射ちますから、人によっては、胃カメラより楽です」という。
 医師と看護師の間で微妙に認識のずれがある。

 このことを書いたときのブログに「そんなに辛くないですよ」とコメントを寄せてくれた人がいる。あれは私に未来への光を与えてくれた。

 ということで、昨日はいつものようにバカ早くに朝食を食べて(しかも予約票の注意にしたがって、いつもよりも軽めに)、こういう日に限ってふだんはない外勤先へ直行。途中喉が渇くが、午後2時からの検査までは絶食・絶飲しろよ、というこれまた予約票に書かれた指示にしたがう。
 あまりの空腹に潰瘍が疼く。

 そして病院へ。

 内視鏡室の中から出てきて私を呼んだのは、決して若くはないがかわいらしい雰囲気を漂わせた看護師。
 なんとなく勇気がわく(こういうときは些細なことでも勇気に変える必要がある。待合室の椅子が空いていたことですら勇気のタネになる)

 スリッパに履き替えてくださいな、と言う。
 このブログには84という数字がタイトルについている。
 だから4か8の番号がついたスリッパを選ぼうかと考えた。
 幸い8が空いていた。でも、そのときに4があったのかどうか確認しなかった。4だったら、やぱり敬遠しただろう。

 上半身だけ着換えてくださいな、と言う。

 隣で着替えているのはオバサンらしく、カーテン越しに「ブラジャーもはずすのかいっ?」と高慢ちきに担当看護師に聞いている声が聞こえる。そんな言葉を耳にしても、こんな状況下の私には何も性的興奮を呼び起こさない。たぶん、こんな状況下でなくてもこのワイルドな声のオバサンには何ら性的興奮も与えられないだろう。

 着替えたあと隣の部屋へ。

 「超音波内視鏡を受けるのは初めて?」
 「お、お、奥さん、は、は、初めてです」ってなこと言ったらおもしろいかなとも思いながら、「初めてです」と誠実そうに答える。

 「これは胃カメラの先に超音波の機械をつけてエコー検査をするものです。おなかの中からエコー検査をするので、よくわかるんですよ。胃カメラは受けたことはありますか?」
 「はい、何度か」
 「胃カメラと同じですけど、こちらの検査はちょっと時間がかかります」
 「承知しております。でも、太いと聞きました」
 「そうです。太いです。でも、眠くなる薬を注射しますから。あなたはただうとうととしてくれていればいいんですよ」
 「寝てしまった方が幸せそうですね」
 「ふふっ、そうかもしれませんねぇ」
 
 口を開けてどろっとした液体を入れられる。
 これを喉に5分間ためておくのだ。喉の麻酔である。
 胃カメラの時もこれだったろうか?ちょっと違う気がする。もっとサラサラした液体だったように思えるが、よく思い出せない。
 まっ、今月末にもう一度胃カメラを飲まなきゃならないから、そのとき確認しよう。今回のことを覚えていれば、の話だが。

 5分たった。
 笑顔が素敵な例の看護師が、「じゃ、それをペッしてください」という。
 ペッ、かい……

 さらに追加の麻酔をかけるという。
 口をあけて喉チンコめがけて薬をスプレーされる。何回も。本物のチ〇コじゃなくてよかった。これは胃カメラのときにはしなかった。
 バラに農薬をかける時とくらべると明らかにかけすぎだ。
 噴霧というよりは、すでに口にたまっている。

 若いときの市毛良枝のような笑顔で看護師が言う。
 「口にたまったやつを一度ペッしてください」
 ペッ、ねぇ……

 ペッすると、もう一度スプレー攻撃を受ける。
 「口にたまったやつをペッしてください」
 はぁ~い、ペッ!

 「では、検査室に行きますね。7番のお部屋に行ってください」
 こんなことならスリッパの番号も7番にすればよかったと後悔する。

 薄暗い部屋に入ると、あの印象の悪い医師が苦虫をつぶしたような顔で、椅子に座って待っていた。彼が私の体に太くて黒いやつを挿入してくるのだ。
 この人、そうとう嫌なことを抱え込んでいるのだろうか。

 「お願いします」、と私は医師に言う。
 医師は何も言わない。
 お願いしますなんて媚を売るんじゃなかった。

 ベッドに寝る。
 あの看護師が「では肩に、おなかの動きを抑える薬の注射をします」という。
 左肩に注射される。
 「体が熱くなってきますけど心配ありません」
 確かにCTの造影剤のときほどじゃないが、熱くなる。
 相変わらず医師は身動きせず、声も発せずに座っている。心の中で釈迦の苦行のことを考えているかのようだ。

 「マウスピースをつけますね」
 看護師はそう言うとマウスピースを口に入れた。
 さらに「はずれると困りますからテープで固定します」と、マウスピースと私の滑らかな頬をニチバンの紙ばんそうこうで固定した。
 こういう固定など、胃カメラではしない。
 この検査では苦痛のあまりマウスピースがはずれるほど被害者は暴れるのだろうか?
 
 「次は眠くなるお薬です。注射すると血管に沿って痛みが走りますけど心配いりませんよ」
 このまま私は殺されるのではないか?
 その昔、何かのアニメで観た、闇研究をしている科学者の実験室に忍び込んだ正義の味方の美少年が、博士の女助手に見つかり、「ちょうどよかったわ。私、これを試してみたかったの。ほほほっ」と出来たての毒薬を注射されるシーンを思い起こした。

 左腕の血管に注射しようとしたが、失敗。
 まあ、薄暗いしね。
 腕に余計な穴を開けられたが、それよりも「早くせんかい!」と、あの医師が怒りだしたらどうしようかと、それを心配に思った。
 右腕に注射することで問題解決。

 血管がちょっとだがシクシクと痛み出す。
 う~……

 「炎症はないみたいだね。まっ、詳しいことは次回だけど、ないにしろ今後どういう食生活をしていくかが問題だな」

 その声で目覚めた。
 あの悪魔に魂を売った(ような感じの)医者の声だ。

 意識は朦朧としていた。だが、確かに医者はそんなことを言った。
 検査が終ったのだ。
 “眠くなるお薬”を注射された直後、私は完璧に眠ってしまったのだ。

 内視鏡を入れられたのも記憶にない。
 抜かれた記憶もない。
 不思議なことに、胃カメラのあとは食道のあたりに違和感が残るが、それもない。
 よだれや涙や鼻水を垂れ流した形跡もないし、失禁した様子もない。

 なんて楽なんだ。
 内視鏡の太さがどんなものだったかもまったく知らないまま、すべては終わっていた。
 これなら最初から高価なCT検査などせずに超音波内視鏡検査を受けりゃあよかった。
 しかも、聞き間違いじゃなければ、判定はほぼ“シロ”だ。

 ベッドから立ち上がる。
 よろける。
 けっこうな麻酔だったようだ。

3caa5611.jpg  会計を終え(5,000円ちょっとだった)たあと、病院内のレストランで親子丼を食べようかと思ったが(検査後30分は飲食はだめだと言われたが、検査後に麻酔が失せるまで約30分寝かされていたし、会計も15分待ちしたので、既に私には飲食する基本的人権が付与されていた)、もう3時になるので我慢した。ビールは空腹で飲むに限るから。

 時間がかかる検査だと言われたが、2時に喉の麻酔をかけ始めて、私が目覚めたのが2時30分。だから内視鏡が入っていたのは実質15~20分ぐらいだったと思う。
 これだけの時間で終わったのだから、逆に“シロ”だろうとも予想できる。

 写真のバラはカレイドスコープ。
 カレイドスコープというのは“万華鏡”のことだ。
 うふっ。……って、なんでこんなことで恥ずかしがる必要があろうか?
 このバラ、開花ステージによって徐々に色が変化するが、その途中で見せる色が、膵臓ってこんな色なのかなって思ってしまう。
 いや、変なこと考えてすいません。

 で、ベリオ(Luciano Berio 1925-2003 イタリア)のピアノ協奏曲第2番「エコーイング・カーヴ(Echoing Curves)」(1988)。もちろんエコー検査とは関係ない。

 この曲は独奏ピアノと2群のアンサンブルのための協奏曲で、印象に残るピアノの暴れるような強奏で始まる。
 私はこの曲の詳細について知らないが、何度か聴いて行くうちにベリオに特徴的な“音の彩”に引き込まれる。

 CDは、「ボッケリーニの『マドリードの夜の帰営ラッパ』に基づく管弦楽編曲」(1975)―この曲は実にすばらしい!―のときに紹介したものを。
 ピアノ独奏はAndrea Lucchesini、ベリオ指揮ロンドン交響楽団による演奏。
 1995年録音。BMG CLASSICS。


 今回の検査の結果説明は月曜日の午前中である。
 その時は絶対に病院地下のレストラン(いわゆる食堂。レストランっぽくない店に限ってレストランと自己主張するのはなぜだろう?)で、親子丼を食べてみよう。500円だった。これが当面の私の夢だ。食券を買うときの自分の姿を私は想像する。

 ねっ?レストランに親子丼。
 この聖なるアンマッチな響き。

 そうそう胃カメラ検査のときに行なった組織検査の結果が郵送されてきた。

 「潰瘍があります。病院で受診してください」

 だから、その日からもう薬飲んでるって!
 大組織病だな。
 病院なのに病気なんだな。
 その組織(私の胃の組織の方)、腫瘍ではなかったそうだから、よかったけどさ。