45f41d95.jpg  昨日、7月5日・仏滅は、膵臓の超音波内視鏡検査の結果発表!および、十二指腸潰瘍の薬を代えてから2週間が経ったためその経過確認診察の日であった。

 まずは消化器科のなかの“膵胆科”。
 名前とは反対に混んでいる(空いたんか?)。

 担当医は、今朝のごはんの味噌汁の具が気に入らなかったような不機嫌そうな顔つきで、画像をパソコンの画面で示しながら説明を始めた。

 「最近はこうやってパソコンで見れるようになって、便利になった……」。彼は私の膵臓のポートレートに話しかけるかのように呟いた。「父さん、もう少し長生きしていたら世の中は変わったんだよ」と墓前で報告するかのように。

 「膵臓には炎症はなかったですね。したがって、アルコール禁止ということには出来ない」
  淡々としているものの、悔しそうな口ぶりだ。
 「ちょっと膵臓にむらがあるが、異常とは言えない」
 「はあ……」

 画面を切り替える。
 スライドショーだ。
 カラーでないのが惜しい気がしないでもない。

 「これが胆嚢。う~ん、胆嚢を包む皮が厚いな。膵液でやられるとこうなることがある。難しいことを言う気はないが、そういうことで胆嚢の皮が厚くなることがある。ただ炎症は起こしてないから異常はない。そういうこと」
 こっちだって不愛想な顔で難しい説明を聞きたくはない。
 胆嚢の形はみかんの一かけみたいな形をしていた。
 「夏みかんみたく厚くなったということですね」と言いたかったが我慢した。

 「まっそういうことで、アルコール禁止と言うことはできない。酒が好きで好きでたまらないって人は、放っておくと『やっぱりなったか』って、必ず膵炎になる」
 彼の目は、そういうときには「ざまあみろ!」って思うんだと語っているかのようだった。
 「酒が好きで好きでたまらないってほど好きじゃないですけど」
 「毎日80ミリ以上アルコールを摂取していたら危ない」
 えーと、ビールの度数が5%として、500缶4本、2000ミリリットルなら100ミリか。失敗した、500缶3本ですって申告しときゃよかった。実際そういう日だってあるんだし。稀にだけど。

 「ただ、大酒飲みのみんながみんな膵臓を壊すわけではない」
 はっ?でもさっきあなたは……。盾と矛?

 「あなたは血液検査の値もやや低めだ。異常があると数値は高くなるが、低くなることもある」
 でも具体的数値は教えてくれない。聞いたところで、きっと「言ったところで理解できるような単純なものではない」と一蹴されるに違いない。
 「酒が大好きでたまらないというなら……」
 「たまらなくはないが、それに準じてます。ですから、はい、減らします」

 「止めろとは、この結果では言えない」。私の控えめで嘘っぽい言葉は無視して、医者は言った。私に決定打を放てなくてよほど悔しいのだろう。禁止と言えない、いう言葉の連発だ。
 でも、この医者の方が顔全体が赤くて、よっぽどアルコール性障害があるように見える。王子とこじきの話のように衣装を交換して、座る場所も替えたら、絶対に私が医者で彼が患者に見えるだろう。

 「まっ、1年後にCTの検査をまた受けることだ」

 な~んだ、私とこれっきりになるのが寂しかったんだぁ。
 えっ?膵臓の場合はCTじゃよくわからないって私を非難したのはあったい誰だったっけ?

 「あの、この間超音波内視鏡の検査を受けましたがすぐにかわいらしく眠ってしまって苦痛もまったくありませんでしたから、1年後は最初から超音波内視鏡を受ける勇気がありますけど」
 「まっ、両方やるのがいいんだけど、それはたいへんだろうし」
 だからどっち?
 そりゃ両方やるのは大変だよ、間違いなく。料金的に。

 まあいいや、1年後に考えるわい。来年はドックで引っ掛からないかもしれないし。そうそうドックのことを聞いておこう。

 「この状態が続くと、また来年は膵管拡張でひっかかりますか?」
 「さあ、どうでしょうね」
 あっそっ!
 「膵臓に関してはドックは無力ですから」
 それはわかる気がする。とはいえ、私はドックで引っ掛かったわけだし。

 さて、診察は9:40に終わった。潰瘍の方は13:15からだ。
 副作用かもということで(実はそうではなかったと、いまでは自分で確信している)、薬を代えて2週間経ったから、このあと何味の薬にするかの相談だ。

7a8aa2ef.jpg  その間、こうやって携帯で文章を下書きして、11時過ぎにレストランという名の食券システムの食堂へ行く。夢にまでみた親子丼だ。

 予想以上に美味しかった。
 味はちょっと薄めだが、病院のなかという場所柄、調理人は涙をのんで最後の醤油の一さしをがまんしているのだろう
 。卵が半熟ではなく、大衆食堂風にかっちり火が通っているのがうれしいし、数粒のグリンピースも華やかしかりころの昭和の時代を思い出させる。

 それにしても大衆食堂ってすごい言葉だ。よく考えると。
 反対語は何食堂って言うんだろう?

 この親子丼の最後の一口を口に入れたとき、信じられないことが起こった。上唇の裏側を噛んでしまったのだ。
 どーしたらこんな場所を噛めるのか?
 でも噛んだ。
 血の味がした。
 今日、7月6日・大安は歯医者に行かなきゃならないってのに……(おまえ、いつ仕事してんだよって疑問は抱かないように)

 あの膵臓の担当医を前にしていたとき、私はこの人悪魔っぽいな、って思っていた。
 そこでタルティーニの(Giuseppe Tartini 1692-1770 イタリア)が書いた、ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル(Le trille de diable)」(1789刊)

 この曲、なんでもタルティーニが夢の中で悪魔に魂を売り、それと引き換えにこの悪魔くんのヴァイオリン・テクを手に入れた。そして目覚めてからこれを楽譜に書き落としたんだそうだ。
 ウソだろ?
 ウソだよね?
 いや、私は毎晩悪魔の夢は見てるけど……

 ここではP.Amoyalのヴァイオリン、他によるCDをご紹介。ヴァイオリン協奏曲とソナタの曲集。1975&1977の録音。apex(原盤:エラート)。

 この有名な「悪魔のトリル」、私は名前は遠く太古の時代から耳にしていたが、実際に曲を聴いたのは実はつい最近のことである。
 確かに難しそうだが、魂と引き換えるほどのものとは……

 あぁ、上唇の内側が疼く……