ae547d37.jpg  なかなかな傑作なのに、いま一つ有名になり切れずメジャーな地位を確保できない。
 いえ、私のブログのことではなくて、ハチャトゥリアン(Aram Il'ich Khachaturian 1903-78 ソヴィエト)のピアノ協奏曲変ニ長調(1936)のこと。

 私はけっこうこの曲が好きで、初めて聴いたのは札響の定期演奏会にて。いきなま体験(いきなり生演奏体験のナウい表現)であった。
 このコンチェルトのいき生体験のときは、大感動とまではいかなかったものの、なかなか良い曲だなぁと思った。それからはピアノ協奏曲のなかでも、けっこう聴く作品の1つとなった。

 この日の演奏はAIR-G(FM北海道)で放送され、私はそれをエアチェックしたものを聴いていたが(“エアチェック”という言葉がすでに死語になりつつあるころだった)、その後アタミアンのピアノによるCDを購入、これまではそれを聴いてきた(ナクソス盤はちょっと好みではない)。

 少し前に、ハチャトゥリアンがウィーン・フィルを振った彼の交響曲第2番のCDについて書いたが、その2枚組CDにはピアノ協奏曲も一緒に収められている。

 ピアノはアリシア・デ・ラローチャ、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団。
 1972録音。デッカ。 

 この演奏はアタミアンとは別の良さがある。
 アタミアンとシュヴァルツ指揮シアトル響による演奏は、あまり感傷的にならないサバサバした演奏で、これはこれで痛快。ハイボールのようだ。
 一方、ラローチャ盤は「あぁ、民族ぅ!」という演奏。人間臭さどっぷり。どぶろくの味わいだ。いや、ピアノはけっこう淡々としているのだが、オーケストラの響きがすっかり民族色に染まっていて、実に上手い!

 特に第2楽章の感傷的な気分は最高。さびしげなピアノ、むせび泣くようなオケ。
 この楽章では、フレクサトーンなる楽器が使われているのだが、ヒュルルル、ヒュルルルする音も、お岩さんが出てきそうなくらい物悲しくて、あぁアルメニア!
 第3楽章のラローチャのピアノは、とりわけ達観した感じ。力みがまったくない。熟練技だ。

 フレクサトーンが登場してくる箇所の楽譜を掲載したが、この全音楽譜出版社のスコアにフレクサトーンのことが書かれているので、載せておく。 

 【フレクサトーン】
 体鳴楽器に分類される打楽器の一種で、ミュージカル・ソー同様特殊効果に用いられる。細い枠に取り付けられた鋼鉄板を小さな玉が叩いて音を出し、その玉を振り続けることでトレモロも生じる。音高は鋼鉄板に指で圧力を加え、それを圧力を変化させることで決まる。1920年頃の発明で映画音楽に多く用いられた。

 この楽器、シュニトケの「エスキース」でも鳴っていた。
 
9c036f11.jpg  とにかくこの演奏、「民族的音楽はあんまり力んでもいけないことよ!」。そんなメッセージを感じさせられる演奏である。

 ところで、妻を健診センターに迎えに行った話の続きである。

 12時すぎに病院(健診センターが入っている)に着き、わき目も振らず私が向かったのは病院の食堂である。

 ちらっと中を覗いてみると、しめしめ、空いてる席がある。
 座っている人たちは、なぜかその多くが痩せた老人で、たぶん通院客、いや通院患者だと思うが、白湯をすするように味噌ラーメンのスープを飲んでいたり、毒見をするようにかしわそばを物静かに時間をかけて食べていた(麺がどんどん膨れて、食べても食べても減っていかないんじゃないかと心配になった)。
 ざっと見たところ、カツ丼やカツカレーを格闘的に食べている人はいない。その光景は、まるで病院内の食堂のようだった。そうなんだけど。

 私は入り口で食券を買った。
 もちろん親子丼だ。

 店内は異様なほど静かだ。
 入り口の外から時折聞こえてくるのは、点滴のスタンドを引きずる音や壊れたマフラーのような咳の音だ。
 でも、私はおいしく親子丼を召し上がった。
 今回は慎重を期したので唇を噛むこともなかった。

 そのあとは病院の待合ロビーで妻の健診が終わるのを待った。
 デュファイの世俗音楽集を聴いていたが、目の前の光景とルネサンス期の音楽は案外マッチするものだなぁと新たな発見をした。きっとこれが「パリのアメリカ人」なんかだと合わないだろうし、誰の作曲でもいいが「レクイエム」だとかなりブラックだ。

 途中、馬鹿でかい声で携帯電話でしゃべっていた爺さんがいたが、耳が悪いにせよひどく迷惑な音だった。もしこの場に具合が悪い人がいたとしたら(その確率は高い)、もっと具合が悪くなっただろう。
 この爺さん、途中で病院の人に公衆電話の方へ行くように注意されたが、「あ゛っ?」って聞き返す声がまたまた馬鹿でかくてまいってしまった。

 そんなとき妻がやってきた。
 
 妻の結果はALL GOODだったという。

 競い合う気はないものの、なんとなく悔しい。
 
 ALL GOODなんて印字を目にしたことのない私は悔しさを紛らわすために、その帰りにアリオ札幌に寄った。そして、そこのタワーレコードでラトル指揮のマーラー交響曲全集を見つけた。悔しさ忘却!

c4ab39b6.jpg  ただ見つけただけなら、どしゃ降りの日にワイパーを動かしていない車を見つけるぐらい簡単なことだ(駐車している車は動かしてないし)。

 私にもたらされたご褒美というのは、その14枚組CDセットのそれまでの価格が7,590円だったのに、なんと2,990円になっていたのだ。
 なんと、60.60606060%オフ!
 なんか半端だけど、とにかくこんだけOff。
 あとさきのことも考えず、もちろん購入。
 幸せすぎて、アタシなんだか怖い。

 レジでスキャンされたとき(私ではなくCDが)、一瞬元値の7,590って表示されて、私は「騙されたのか?」と深海魚のように喉から浮き袋が飛び出しそうになったけど、すぐに2,990にかわりすっごくほっとした。タワーのセール品ではこういうことってよくあるけど、すっごく心臓に悪い。

 でも、確かに今回私はすっごく儲けた気分だけど、こんなふうに下がるんだったらCDっていつのタイミングで買ったらいいのかしらんって思ってしまう。逆の立場だったら、つまり自分が7,590円で買ったCDが今回見たら2,990円になっていたら、私、アリオのトイレでしくしくと泣きじゃくってしまいそうだ。

 CDボックスの角が白くなっているが、これは色あせたのではない。
 私も「ウゲェ~!傷物?」と最初は思ったが、指でやさしくなぞってみると、すべすべ。
 こういうデザインなのだ。
 もうっ!、驚かさないでっ!

 さあ、ラトルのマーラーを聴かなきゃ。