あの地震、そして津波が起こった数日後。
新聞に「終戦を迎え焼土と化した日本が復興・再建するのとは比較にならないくらい、今回は復興が早く進むに違いない」といった趣旨のことを書いていたどこかの誰かがいた。
その理由は、敗戦国日本と違い、いまの日本は経済力があり、海外諸国との関係も良好で援助の力を借りられるから、といったものだった。 その理屈が正しいのかどうか私にはよくわからないが、これを目にしたときに頭に浮かんだのが4年前に読んだロバート・ホワイティングの著書「東京アンダーワールド」と「東京アウトサイダーズ(東京アンダーワールドⅡ)」だった(松井みどり訳。角川文庫)。
急速な戦後復興が進む日本、そして東京。しかし、その裏にある巨大なヤミ社会。
私はこの本を戦慄を覚えながら、同時にそのヤミ社会のすごさに感心しながら読んだものだ。そのとき自分が東京に住んでいたことも、雰囲気的に身近なことのように感じたのかもしれない。
もちろん私は戦争のことも、その後の復興期のことも知らない。
「東京アンダーワールド」では、夜の六本木を支配した東京のマフィア・ボス、ニコラ・ザペッティを中心にドキュメンタリーは進んでいくが、ここには力道山も出てくる。
私が子供ころ、プロレス中継というのはとても人気が高かった。
しかし私の世代では、すでに力道山というのは名前だけを耳にする伝説的なプロレスラーであり、ジャイアント馬場がスターだった。
本書では、その力道山は日本の戦後にどのような役割を果たしたのか?そして、なぜ謎めいた死を遂げたのか?も明らかにされる。
また、ここにはロッキード事件ですっかり有名になった児玉誉士夫(彼は右翼のフィクサーであり、自民党の設立者であり、CIA顧問だった)の暗躍ぶりも書かれている。
私にとって児玉誉士夫というのは、ロッキード事件でしか名前を知らない人物だが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」に出てくる“強大な地下の王国”を築いた“先生”と呼ばれる人物と児玉誉士夫がだぶる。小説のなかの“先生”は戦後に一人でこれを築き上げたのだった。たぶんモデルは児玉誉士夫だ。
続編の「東京アウトサイダーズ」でも、夜の東京に暗躍するアウトローたちの実態が描かれている。
もちろん、今回の震災と戦後とは違う。
が、ここには何か警戒しておくべきヒントがあるような気がする。
いずれにしろ、原発事故がどうにかならない限り、ヤミ社会がどうこう言ってられないんだろうけど……
§
ショスタコーヴィチ(Dmitry Shostakovich 1906-75 ソヴィエト)のカンタータ「われらの祖国に太陽は輝く(The sun shines on our Motherland)」Op.90(1952)。
この作品もショスタコの体制迎合作品として、まず演奏されることのない曲である。
第20回共産党大会のために作曲された。詞はドルマトフスキー。 ドルマトフスキーといえば、その昔、日本の合唱ブームにのって盛んに演奏されたショスタコのオラトリオ「森の歌」Op.81(1949)の歌詞も、彼によるものである。
「森の歌」はスターリンによる大自然改造計画の一環である植林計画を賛美した作品で、前年1948年の作曲批判に応えた“回答”である。しかし、その作曲の背景から現在ではあまり聴かれなくなってきている。
「森の歌」にしろ、そしてこの「われらが祖国に太陽は輝く」にしろ、聴いていて魅惑的な旋律に満ちており、健康的な感動を呼び起こす曲ではある。“もはや時代にマッチしない”と断罪するほどの罪は背負っていないと思うし、体制迎合音楽とはいえ、矢野暢氏のように「空虚に響く」と片付けてしまうにはもったいない作品だと私は思う。
「われらの祖国に太陽は輝く」の愛らしい児童合唱や式典音楽のイロハのような盛り上がりは、余計なことを考えないで聴くとけっこう楽しい。
そして、壊滅状態になった東北のことを考えるとき、詞の内容はともかく(詞の内容を私は知らない)、私は「われらが祖国に太陽は輝く」という言葉に妙に希望を感じてしまう。
私が持っているCDは、コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニー響、モスクワ合唱学校児童合唱団、アカデミー・ロシア合唱団による演奏のもの。
1965録音。音は良くない。
カップリングはスヴェトラーノフ指揮の「森の歌」。アシュケナージのまったく気合の入っていない演奏に対し(この解釈こそ本質をついているのかもしれないが)、こちらは熱血漢の演奏である(1978録音)。
新館入口(2014.6.22~)
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