外山雄三(Toyama Yuzo 1931- 東京)の作品で、私が最初に聴いたのは「オーケストラのためのラプソディ」(1960)だった。
 あの頃、岩城宏之がよくこの曲を取り上げていたような気がする。
 実際、私も岩城の指揮で札響の定期演奏会で聴いたこともある。

 「ラプソディ」は、日本人の魂を揺さぶってくれるような、血が騒ぐ曲である。
 一時期私もずいぶんと聴きこんだものだ。
 私も日本人ってわけさ。

 しかし、あるときから全然聴く気がなくなってしまった。
 なんというか、この曲、聴いていて妙に恥ずかしくなるようになったのだ。それは、地方のローカルテレビ局で、観たこともないようなへたくそというか、わざとらしいというか、いかにも安上がりなCMを目にしたときのような、恥ずかしさと冷めた笑いが同居する、あの感覚に似ている。

 「ラプソディ」は日本の民謡をオーケストレーションしたメドレーだが、元の曲があまりにもそのまま出てくる。それが親しみやすく、大和魂をくすぐりもするのだが、もうそこまでやらないで、って気持ちになってしまったのだ(でも、聴きはじめると血液温度が上昇する)。
 私は今になって気づいたが、この曲、まだブログで取り上げたことがないようだ。書かなきゃ……

 外山の作品では、代表作とも言える「ラプソディ」に比べ、私はヴァイオリン協奏曲(第1番。1963)方がずっと好きである。
 この曲は札響が初めて海外公演に行ったときにも持って行った(独奏は当時のコンサートマスターの佐々木一樹。一樹ちゃんはいまいずこ?)。

 §

 提示部を終わり、話はいったんエピソード部へと入る。

 《偽りの妻であり、かけがえの無い子供の母ですが貴方の女にしてくれませんか?

 こんなタイトルのメールが来た。「かけがいの無い妻であり、偽りの子供の母ですが」じゃないだけ、まだ無視しきれない気がする(半分うそです)。
 それにしても、スパムメールでは「あなた」を「貴方」と表記するものが多い。なぜだろう?文章書きの仕事を、高齢者何とか事業団みたいなところに委託しているんだろうか?

 このメール。勝手に送りつけときながら、《【重要】yahoo及びybbアドレスを御利用のユーザー様は当メールの後半の案内も必ずご確認下さい》と、受信拒否されないよう手を打っているところが、けっこう丁寧な仕事に思える(最後の方に解除法と、ご親切なことにアドレス変更サポートのサービス案内まである)。

 で、本文であるが、

 《春になって花は咲いても直ぐに散るし、流行りもそんなに長くは続くものではないし、そういう波に乗って生きていくのも大事かなって思います。でも全員が同じ様な幸せを求めているかと言うとそうでは無いと思いませんか?結婚をしていて子供もいてそれなりに幸せかもしれませんが別の所に生きてるって実感を得る人もいると思うんです。。私みたいに。不謹慎なお願いごとかもしれません。私と不倫関係の割り切りのお付き合いをして頂けませんか?

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……(以下略)ってもの。

 句読点けっこうぐちゃぐちゃ。
 「直ぐに」、「流行り」など、やっぱ高齢者何とか事業団の疑いは捨てきれない。

 で、私が何を言いたいかというと、春になって遅ればせながらウチの庭のクロッカスもようやく咲いたということである。

 §

71628cb3.jpg  クロッカスとサフランはよく混同される。
 そのあたりのことは、前に書いた。違うものだということを。

 そして、この文は劇的に展開部みたいな再現部のような輪廻の世界へと入る。

 「新川和江の詩による歌曲集(Songs by the Poetry of Kazue Shinkawa)」。
 外山雄三が1996年に書いた3曲からなる歌曲である(CDには書かれていないが別の本によると、この作品には「ひといろ足りない虹のように」というタイトルがついていると思われる)。

 第1曲は「今はもう」、第2曲は「サフラン」(ほら、来たっ!)、第3曲は「なつのひょうが」となっている。

 新川和江は戦争体験を持つ詩人で、その詩には女性の視線からの愛と自立が描かれているという。

 第2曲の「サフラン」は、

 さびしい人から
 さびしさを引いた数だけ
 サフランは ひらきます

と始まる。

 おかしいな。じゃあ私のサフランは1つも咲かないはずなのに……

 あっ、違うのか。
 詩の最後は、

 たくさんのさびしさよ
 サフランとなって 咲きなさい
 サフランと咲いて 癒えなさい

とあるから。どうりでたくさん咲いたわけだ。

 切ない歌詞だが(良い詩だ)、外山の音楽はほのかな温かさ讃えており(ソフラン仕上げのようだ)、けっこうジーンときたりなんかする。

 CDは「外山雄三オーケストラ作品集2」。
 オーケストラはNHK響。この歌曲のメゾ・ソプラノ独唱は竹田弥加。
 ほかに、交響曲第1番、第2番。チェロ協奏曲が収められている。
 2000年のライヴ録音。フォンテック。