その昔、「匂いのエロティシズム」という新書を買って読んだことがある(鈴木隆著)。もちろんいたって真面目な本である。
読後に無造作にリビングに置いてあったところ、それを見た当時小学生の息子たちがそろって「エロだって。やらしい」と言いだし、「こんなのを買うの恥ずかしくなかったの」と、まるでビニ本を買ったことを非難されるかの如く、軽蔑の目で見られた。
小学生でも「エロ」という言葉に、妙に反応し、その言葉の意味は決してあっけらかんとしたものではないととらえていたようだ。
エロティシズムっていうのは、つまりは♂♀間の性的なテーマを追求するものだから、そう正しくわかっているかどうかは知らないけど、エロ本とかからイメージが植えつけられるんだろう。
考えてみれば、私もはじめて「エロイカ」という言葉を耳にしたとき、「エッチなことに使うイカなんだろうか」と思った、ことはなかったが、なんか「ベートーヴェンのエロイカ」と口に出すことに抵抗感を感じたものだ。
私の言葉を聞いた人が、独身男のベートーヴェンがイカの胴体を使って旧約聖書のオナンのようなことをするのだろうか、と想像されたら困る、みたいな……
いや、それは嘘八百の話だけど、そしていつもタコのことばかり書いているから(ショスタコーヴィチのことね)今日はイカの話ってわけではないけど、エロイカである。
ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827 ドイツ)の交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄(Eroica)」(1803-04)。
共和主義の象徴だったナポレオンに献呈すべく作曲されたが、ナポレオンが皇帝の座に就いたことを知り失望しイカったベートーヴェンが、「ボナパルト交響曲」から単に「英雄交響曲」という名に変えたと言われている。
この交響曲を聴くと、それ以前に書かれた交響曲(ハイドン、モーツァルト、自作の第1~2番など)とは大きく違うことがわかる。規模が大きく、構成的で、個性的だ。このジャンルにおいて革命的な作品である。
岩井宏之氏はこう書いている(昔の“レコ芸”の付録だった小冊子で)。
《この交響曲の第1楽章は、主題とよぶにはどこか不完全な、むしろ主要動機といったほうがふさわしい簡単な旋律に基づいて書かれている。それは主和音を上下に動くだけの単純な旋律である。この旋律、およびこれを支援する他のいくつかの旋律が、ベートーヴェン特有の運用によって、600小節以上の巨大な楽章に成長していくのだが、この楽章の興味の中心は、ベートーヴェンの創造力が最大限に発揮された展開部であろう。……
主題とよぶにはどこか不完全な旋律を用いてもなお、充実した展開部を生み出すことができる。この事実は、ソナタ・アレグロ楽章における主題の概念に、大きな変化を与えずにはおかなかった。すぐれたソナタ・アレグロを書くためには、もはや、たんに美しい主題では不充分なのである。それは、オーケストラのあらゆる能力を発揮させ、かつ音楽的発展に耐えるだけの、いうなれば、きたるべき運用に向かって開かれた性質のものでなければならない》
また、吉田秀和氏は「LP300選」のなかで、《素材の異常な豊富と、表現の強烈な大胆さという点で、ベートーヴェンの数ある傑作のなかでも、屈指のものだ》と述べているが、第2楽章について、《ときには実にすばらしいと思い、こんなふうに、一生の一瞬が深く充実しすぎてゆくならば、と願わずにいられなくなる時と、どうにももてあますほど長ったらしく感じられる時と、私自身のからだや心の具合で、ひどくちがってきこえる》と書いてあるところが、興味深いというか、すごくわかる気がする。
特にナポレオンを意識したものではないとされている第2楽章「葬送行進曲(Marcia funebre)」。私にとっては、この楽章はいまだにあまり得意ではない。ということは、もはや一生共感できないかもしれない。
これまでクリュイタンス盤と新しいベーレンライター版を用いたジンマン盤を取り上げたが、今日はショルティ/シカゴ響のものを。緻密なところからパワーのさく裂まで、実に音が豊かで推進力のある演奏だ。
ショルティは基本的にオリジナル楽譜に従っているようで、例えば前に書いた第1楽章のトランペットの補強も行なっていない。
いやぁ、第9以外聴いたことがなかったけど、ショルティ/シカゴ響のこのベートーヴェンはまことに良い。
1973録音。デッカ。
今日は9時過ぎから胃カメラを飲む。
やはり検査結果がどうなのか気にかかるのか、昨夜はよく眠れなかった。
しかも、検査を受け「いま見たところ、異常は……」という夢を、パターン違いでいくつか見た。何度も目覚めたが、そのたびにとても明るくない気分になった。
そして、今私は空腹である。
検査が終わったあとどれくらい経ったら物を食べてもいいんだっけ……?
新館入口(2014.6.22~)
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