昨日“五番館”のことを書いたが、私が子供のときは“五番館”がいちばんデパートらしい感じがして、行くとしたら“五番館”がいいなと思ったものだ。
 カトレアの絵が描かれている包装紙もとても思い出深い。

 小学生の時に学研のマイキットというおもちゃを買ったのも“五番館”でだった。
 これ、電子ブロックの親戚のようなもので、遊びながら電気のことを学べるものだった。
 当時の“五番館”は、このようなマニアックな教育玩具も置いてあるほど品ぞろえが充実していたのだ(ろう)。

 高校生になって頻繁に市の中心部に出るようになったとき、ちょいとおじさんくさいが、“五番館”の最上階にあった大食堂のザルソバもよく食べた。
 そばコーナーは古市庵とかいう名の店が担当していて、冷たいソバの甘めのつゆが絶品だった。

 なのに、西武になり大食堂はなくなり、包装紙も変わった。

 近くにあった経営母体だった札幌興農園という種苗・園芸会社のビルもいまはなくなってしまった。数年前までは園芸店として営業していたのに……(私は大学4年生のとき、卒業後は札幌興農園に就職したいと思い問い合わせたことがある。そのときは新卒は採らないということだった)。

 そのような運命をたどった“五番館”。

 “五番”に“運命”と来た日にゃ、もう避けられない運命だ。「運命」を紹介することが。

 ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827 ドイツ)の交響曲第5番ハ短調Op.67「運命(Schicksal)」(1805-08)。
 といっても、「運命」っていうニックネームは、世界的に広く使われている呼び名ではないらしい……

cdf9f9f0.jpg  この曲は、あらゆるクラシック音楽作品の中でも最も知られているものの1つだろう(冒頭だけだろうけど)。
 また、ベートーヴェンといえばこの「ダダダダーン」(掲載譜・上。これは全音楽譜出版社のスコア)をまず当たり前に思い浮かべる人はかなり多いに違いない。

 確かにベートーヴェンらしい力強い音楽であり、彼の肖像画から想像してしまう、その激しい気性にもあっているように思える。
 が、この第5交響曲って、ほかの8曲の交響曲の中では異質な存在ではないだろうか?
 第1~4番、第6~9番の8曲をみても、ここまで汗臭いというか暑苦しい曲はない。
 第9がやや近いか?

 第4番~第6番の3曲の交響曲は1806年から'08年の3年の間に書かれた。
 第4番変ロ長調Op.60は1806年、第5番は1805~'08年、第6番は1807~'08年である。

 第5番単独ではなく3曲セットで見てみると、第5番を具としたサンドイッチのように思えてくる。
 この場合、具はもちろん衣が厚ーいハムカツ。ときおり無性に食べたくなるハムカツ・サンド。ソースがくどーいハムカツ・サンド。どことなく貧乏臭さを漂わせるハムカツ・サンド。

 C.クライバーがウィーン・フィルを指揮したこの曲の演奏は、私としてはバイブル的な名演奏である。
 が、今回ショルティ/シカゴ響のものを聴いてみると、演奏の凄さという面ではクライバーにかなわないが、クライバーの演奏は繰り返し聴くにはくどくてたびたび聴くには勘弁だ。ハムカツ・サンドでも、ハムカツにはちょいと使い古した油の匂いがし、しかもそれを真夏の柔道部の部室、汗臭ぁ~い部室の中で食べてるような味がする。

 かといって、重心が高い響きの演奏、さらさら血液の健康型演奏は物足りない。
 その点、ショルティの演奏も男として十分な機能を果たしているが―いや、この言い方はちとまずい―男臭さと力強さを持っているし、ずっしりとした重量感もあるが、クライバーほど暑苦しくはない。

191082ea.jpg  ショルティの第5番の演奏で、いちばん私が不気味にニヤリとしたところは、第3楽章の中間部、ベルリオーズが「象のダンス」と言ったといわれる急速な低弦のパッセージ。ここはテンポの速さから1つ1つの音が粒だたなくなることが多いが、シカゴ響は見事なアンサンブルを聴かせてくれる。

 さてさて、第5番がサンドイッチの具のハムカツだとすると、第4番と第6番はパンということになる。

 私は常々思っていることがある。角食のことをなぜ食パンと呼ぶのかということだ。だいたいパンというものは食するものじゃないのだろうか?

 という屁理屈はともかく、ショルティの演奏は第4番も第6番もいい。

 第6番の第1楽章の掲載譜・下の箇所なんて(このスコアも全音楽譜出版社のもの)、ショルティだからってわけじゃないけど、マーラーの交響曲第1番の4度下降の“カッコウ動機”に聴こえてくる。

 別に私はショルティの遺族から何かをもらってるわけじゃない。DECCAからも何ももらって31c7aee9.jpg ない。むしろ小遣いをはたいて貢いでいるくらいなのだ。
 でもこんなに褒めるのは、ほんとに私の感性にフィットする演奏だから……

 私の感性について半信半疑、もしくは無信全疑(こういう言葉はない)な方は、私の話を無視してくださって結構でございますけど……

 交響曲第7番、第8番の演奏も同様にすばらしい。キレがあるのに豊かである。演奏と音響が。

 この交響曲全集は、アメリカのオケなのに、とてもドイツ的な音がするのである。
 第4~6番の録音は1974年(クライバーの第5と同じ年ではないか!)。DECCA。
 
ace2e1d9.jpg 昨日から旭川に来ている。
 昨日は旭川からさらに北には、村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台である十二滝村のモデルとなった町がある。が、そこに行ったわけではない。
 途中、羊を売り物にしている士別市を通った。
 羊を描いた、なんとも言えない看板があった……

 午後に札幌へ戻る。