96248b04.jpg  先週の金曜日の放課後、じゃなかった、仕事帰り。

 中華料理を食べに行く前に、飽きもせずにタワレコに寄った(つまりは日曜日の昼下がりの、ギュルギュル・ピーの2日前のことだ)。

 あまり訪問する人が多くない“現代音楽コーナー”に行くと、B.A.ツィンマーマンやらその他初めて耳にする作曲家の、WERGOレーベルのCDが「ほら、買えよ!」とばかり棚の上段に並べられており、「欲しいな。でも1枚2,510円もするのか、高いな。でも欲しいな。これじゃあ4枚で1万円を超えちゃうな。未知の領域を開拓するにしては無謀な賭け、リスキーな投資かな。そのうち安くなるかも知れないし」と、私は煮え切らない豚バラ・ブロック肉のようにうじうじしまった。

 こんなにうじうじすることは、私には珍しいことだ。この歳になって、ようやく少しは分別がつくようになったようだ(燃やせるゴミと燃やせないゴミの分別は、いまだに市が発行した分別リストを見ないとわからないことが少なからずある)。

 あんまりうじうじ悩んでいて、おや、気がつけば中華料理店に行く約束の時間が迫っていた。
 ということで、この日は買わないことに決めた。

 棚に向けていた身体を「右向け右」して、下りエスカレーターの方に向かおうとしたら、どこかで見たことがある人の姿があった。
 
 札幌駅前通りに古くからある、“宝石の玉屋”の店先においてある人形に似てなくもない彼は、ニヤリと笑った。

 誰だっけ?
 タマちゃんだっけ?
 すぐには思い出せなかった。

 おっ!
 0.8秒後に思い出した。
 隣の課のSさんだ。

 あまりにも想定外の場所で遭遇してしまったので、日々見ている顔なのに、しかもしょっちゅう社の喫煙室で一緒になるのに、誰だか思い出せなかったのだった。

 こういう言い方をしては失礼だが、彼がクラシック音楽のCDの前に立っているなんて、私にはまったく想像を絶することだった。ドラキュラがニンニク畑に作柄の様子を見に来ているぐらい違和感があった。
 そもそもクラシック音楽を聴くということさえ知らなかった
 いや、いまでも彼がクラシック音楽を聴くことが好きなのか解明されていない。単に迷い込んだだけだという可能性も、私は捨て切れていない。

 彼を認識した私は気持ちを取り直し、「あれ?よく来るの?」と、ここで遭遇するのはまったく自然なことのように問いかけた。
 Sさんはその質問には答えずに「やっぱり、ここがいちばんたくさんあるんですかね?」と、まるで潮干狩りでシジミを採りに来ているおっさんのように言った。

 「たぶん」と私は答え、「今日は買わないで帰るから」と別に言う必要もないことを言って店を後にした(注:今回の記事タイトルで干潟しじみさんが出てくると期待した方(特にご本人)、すいません)。

 かつて、札幌で最もクラシック音楽のレコードの品揃えがあったのは“玉光堂のすすきの店”だった。1980年頃のことで、初めてこの店に行ったときにはあまりの数の多さに「私、どうしたらいいんしょ?」ってパニックに近い状態に陥ったものだ。

 それまで“ぴぴ”やら“ロビンソン”やら“玉光堂オーロラタウン店”ぐらいしか知らなかった私には、そーとーなカルチャー・ショックだったのだ。

 輸入盤のLPを初めて目にし、買ったのも“玉光堂すすきの店”だった。
 DECCAの廉価盤で、マルティノンが振ったフランス管弦楽作品集
 この盤を購入してから、私は国内盤よりも輸入盤の方が音が良いと信じ込むようになった。

 CD時代になって、私は同じく玉光堂が運営する“PALS21”ばかりを利用していた。
 しかし、入居していたビルとの賃借契約の関係で閉店、いまは“玉光堂4丁目店”に統合された形になっているが、お話にならないくらいの品揃えとなってしまった。

 私がタワレコの札幌Pivot店を利用するようになったのは、“PALS21”が閉店になったあとだが、タワレコもジワジワとクラシック・コーナーの売場が縮小されてきている。
 そのうちCDっていうもの自体が無くなってしまうのかもしれないけど……

 最初に買った輸入盤LPには、イベール(Jacques Ibert 1890-1962 フランス)の「室内管弦楽のためのディヴェルティメント(Divertissement pour orchestre de chambre)」(1930)が収められていた。
 かつてコンサートで聴き、印象に残っていた作品に、私はここで再会できたのだった(その後、この音源のCDを購入した)。

 今日はその「ディヴェルティメント」の、ルイ・フレモー指揮バーミンガム市交響楽団の演奏について。

 ルイ・フレモーという名前は、それこそ1980年ころによく耳にした。
 当時はけっこういろいろとレコーディングしていたのかもしれない。
 フランスの指揮者なので、単純に考えればフランス物に期待ができそうだ。

 この「ディヴェルティメント」も小粋な演奏だ。
 マルティノンのがちょっと勢いがありすぎな感じがしないでもないのに対し(すっごく楽しいけど)、音が混濁していないこちらだと、この曲がこじんまりとした編成であることもよくわかる(付随音楽「イタリアの麦わら帽子」から改編されたこの曲は、ピッコロ、フルート、クラリネット、ファゴット、コントラ・ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン各1と、2ヴァイオリン、2ヴィオラ、2チェロ、コントラバス、ピアノ、チェレスタ、打楽器という編成である)。

 しかし録音が良くない。
 混濁はしていないが、1973年の録音だというのに音の広がりに乏しく、1960年録音のマルティノンの方がトータルとしてはすばらしい。やっぱDECCAだから録音がいいのだろうが、それにしても、EMIのこちらのディスクは音場が狭すぎる。こじゃれた雰囲気の演奏だけにそこが恨めしい……

 まっ、2枚組で1,000円しないんだから、あまり贅沢言えないんだけど……

 そんで日曜日。
 PMFオーケストラのコンサートに行く前に、懲りもせずに立ち寄ったタワレコ。
 結局WERGOの現代音楽CDは1枚も買わずに、まったく別なCDを買った私であった。