c8a78892.jpg  おととい、ヴァシリー・ペトレンコ(余談だが、単に“ペトレンコ”で検索するとフィギュア・スケート選手が最初にヒットする)が指揮したショスタコーヴィチの交響曲第5番のCDを紹介した。
 私としてはこの演奏にけっこう満足したが、そうなるとほかの曲も聴きたくなるのが人情というもの。

 ところでの若手指揮者でショスタコと聞くと、私の頭に浮かんだのは、今年のPMFでショスタコの10番を振ったポーランドの新鋭ウルバンスキである。

 PMFでの演奏はなかなか良かったものの、まだオケが訓練されていなくてウルバンスキの力量が発揮されたとは言えなかったのではないかと思う。実際、事前の新聞記事の期待する内容からすると、どうも消化不良に終わったのではないか?
 原発事故で急に来なくなった指揮者の代役として来てくれたのに、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 別に意地悪く比較しようという気持ちからではないが、ペトレンコの2枚目として私はそのショスタコーヴィチ8c02fa5c.jpg (Dmitry Shostakovich 1906-75 ソヴィエト)の交響曲第10番ホ短調Op.93(1953)を聴いてみた。2009録音。ナクソス(写真上はスリーヴのもの)。

 で、これまた小馬鹿にする気はないのだが、なかなか面白いのでCDの帯に書かれている文句をご紹介すると、「全てが爆発する瞬間を待つ楽しみ 彼はまた、新たな世界を見せつけた」ってもの。なんか、岡本太郎みたい。

 細かな文字では「ムラヴィンスキーが初演して以来、多くの指揮者たちがこの曲の本質を描きだすべく願っていますが、ペトレンコの演奏は、また新たな一石を投じることになるでしょう。第4楽章、燃えます。ペトレンコは完全にショスタコーヴィチを手中に収めました!」と書かれている。

 そうなの?多くの指揮者たちが願っていたの?
 どういうふうに一石を投じたの?
 燃えちゃったの?延焼はしなかった?大丈夫?

 というような、愚かな独り芝居はやめて、さっさと聴いてみた。

 す、す、すごい!
 最初の音から引き込まれた。
 張りつめる緊張感と密度の高さ……

 ショスタコの交響曲って同じ楽譜を演奏しているはずなのに、「なんで?」と思うくらいスカスカな響きの演奏に出会うことがある。第10番だって例外ではない。

 しかし、ペトレンコの演奏はこんなに厚みのある作品だったのかと思うほどの響き。
 鳴るところ、ひそひそするところ、悲しむところ、から騒ぎするところ、そのどれもが必然的に鳴り響く。
 「第4楽章、燃えます」ではない。
 「全曲、萌えます!」。

 これまで聴いてきた第10番の演奏の私のベスト!
 
 ほんと、いい!
 これは絶対聴いて損をしない演奏だ。