f029b43d.jpg  伊福部昭の喜寿記念コンサートが行なわれたのは平成3(1991)年12月13日のことである。
 そのときのライヴCD「伊福部昭の世界」(東芝EMI-FUTURELAND)には貴重な曲と演奏が収められている。

 その曲というのは「9人の門弟が贈る〈伊福部昭のモチーフによる讃歌(Hommage a Akira Ifukube)〉」(1988)である。
 これは、伊福部の教え子の9人-原田甫、石井眞木、眞鍋理一郎、今井重幸、松村禎三、三木稔、芥川也寸志、池野成、黛敏郎-が伊福部作品のメロディーを引用して書いた9つの小曲で、各作曲者がタクトを振った(1989年に没した芥川の作品は石井が指揮を務めた)。

 演奏の方は、伊福部昭自身がタクトを振ったバレエ音楽「日本の太鼓《ジャコモコ・ジャンコ》(Drumming of Japan-JAKOMOKO JANKO)」(改訂1984)。
 伊福部が自作を指揮したということと、黛敏郎や石井眞木などの教え子たちが和太鼓を担当した点が貴重だ。“ジャン!”という最初の一音の直後に、カラカラと太鼓のばちが転がる音が聞こえる。誰かがいきなりばちを落としたようだ。
 やれやれ……

 伊福部の指揮による演奏は、比較的スロー・テンポ。
f4daccd8.jpg  第1楽章は手探りのような慎重運転。しかし、第2、第3と進むにつれ、オケとの呼吸も合ってくる。
 が、最後までやらかしてくれるのが和太鼓軍団。終楽章になっても絶妙にアンサンブルが乱れたりする。アットホーム的温かさがあって、まっ、いいんですけど……
 ちなみに和太鼓軍団のメンバーは原田、石井、眞鍋、今井、松村、三木、池野、黛、永冨正之。作曲家と言えども、オケの中で太鼓を叩くのはなかなか簡単にはできないようだ。

 「伊福部昭のモチーフによる讃歌」では、芥川と黛の作が飛び抜けて良い。ともに名曲で、ほかのメンバーの作品にはないオーラみたいなものがある。
 各曲のタイトルは、以下の通り。

 1. 原田甫/Felicidades El Maestro!
 2. 石井眞木/幻の曲
 3. 眞鍋理一郎/Omaggio al maestro Ifukube
 4. 今井重幸/狂想的変容 Metamorfosi Rapsodiana
 5. 松村禎三/Homage to Akira Ifukube
 6. 三木稔/GODZILLA IS DANCING ゴジラは踊る
 7. 芥川也寸志/ゴジラの主題によせるバラード
 8. 池野成/Omaggio a maestro A.Ifukube
 9. 黛敏郎/Hommage a A.I.

 芥川の曲は、彼らしい都会的に洗練された、しかし痛々しさを感じずにはいられない繊細さ、というよりははかなさが全曲を支配する音楽。ゴジラのモティーフがこれほどまでに切なく聴こえてくるとは!
 黛の曲は、ゴジラ、交響譚詩、そしてゴジラに似ていると言われるラヴェルのピアノ協奏曲の第3楽章が絡み合う。そして、「アイ アイ ゴムティラ」(「ギリヤーク族の古き吟誦歌」(1946)の第1曲)が弟子たちによって歌われるのだが、その歌のひっでえこと。
 同窓会の最後、酔っ払って肩を組んで校歌を歌うおっさんたちって感じだ(歌の入りも揃っていない)。作曲家と言えども、オケに合わせて歌うのはなかなか簡単にはできないようだ。
 でも、とっても楽しい気分にさせられる。